アサヒやアスクルを襲ったランサムウェア、もう人間だけの対応は限界…サイバー攻撃の兆候を先読みして「AIで先制防御」の可能性
AI防御は単なるコストではない。IBMの調査では、1件のデータ侵害による平均損失は7億円超。AIが1件の被害を防げば、導入費用を上回る投資効果を生む。
被害は金銭的損失にとどまらない。生産停止、信用失墜、ブランド毀損――いずれも企業の無形資産を直撃する。だからこそ、AIによる先制防御は「費用」ではなく「信頼への投資」である。将来的には株主や格付け機関が、サイバーセキュリティ投資の有無を評価指標に組み込む時代が到来するだろう。
ただ、AIが自律的に判断を下す時代でも、最終的な統治責任は人間にある。経営層は、AIの意思決定を可視化し、社会に説明する体制を構築しなければならない。
ブラックボックス化を避け、AIの強化学習過程を熟練者が監督する仕組み、判断理由を言語化可能にする可視化技術、CISO(Chief Information Security Officer)の経験知を重視したハイブリッド判断体制――これらが、技術と倫理の融合によるガバナンスを支える。
安全神話の罠を避ける3原則
AI防御にも過信は禁物だ。仮想環境が完璧に現実を再現することは不可能であり、過信すれば「AIが守ってくれる」という新たな安全神話に陥る。その罠を避けるために、企業が取るべきは以下の3原則だ。
(1)資産情報の正確化
(2)意図的な欠陥導入
(3)段階的展開管理
IT資産を正確に把握するのはもとより、ネットワークに起こりうるトラブルを想定してあらかじめシミュレーションすること(ファイアウォールに障害が発生した際の予備システムへの切り替え、ランサムウェアなどによるデータ損失時の復旧、地震など大規模災害時の対応など)。
またネットワークの構成やOS、ビジネスアプリケーション、セキュリティアプリケーション、攻撃手順の違いでインシデントシナリオは無数に存在する。この多様なシナリオを訓練やテストなどに応じて柔軟にシミュレーションできるようにしておくことが求められる。
こうした地道な対策の積み重ねが、「見える安全」ではなく「実在する安全」を確保する。



















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