アサヒやアスクルを襲ったランサムウェア、もう人間だけの対応は限界…サイバー攻撃の兆候を先読みして「AIで先制防御」の可能性
アサヒGHDの事例でも、数時間の判断遅れが全社機能を停止させ、供給網全体に打撃を与えた。この限界を突破するには、AIによる自律・先制型の防御への転換が不可欠だ。マルウェアの自動生成やフィッシングの高精度化が進む中、攻撃は人間の思考速度を超えて展開される。防御側が人間に依存し続ければ、必ず後手に回ることになる。
サイバーレンジの整備と防御AIの訓練
先制防御の実現には、人間に代わり自律してタスクを処理するAIエージェントを実戦レベルに鍛える仮想環境、つまりサイバーレンジの整備が要となる。強化学習など、AIは環境下で試行錯誤を繰り返し、異常検知やシステム遮断などの行動を自律的に獲得する。
アメリカのSimSpace社は高精度なサイバーレンジを提供し、国防総省から金融業界までが共通の訓練基盤を活用している。一方、日本では経産省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が仮想環境でサイバー攻撃に対する訓練ができる「産業用サイバーレンジ構想」を進めるが、まだ個別企業の対応にとどまっており、官民連携の本格的エコシステム構築が求められる。
現在のサイバー空間は「知能の速度競争」の時代に突入した。AIが生成した攻撃コードは、既知の脆弱性を数秒で突き、回避成功率も上昇傾向にある。もはやスピードだけでは防ぎきれない。攻撃の兆候を先読みし、先手を打つにはAIと人智を統合した知能構造の確立が必要である。
この意味で、AIによる先制防御とは「リスク回避」ではなく「能動的リスク経営」であり、攻撃者の動きを予測し、発動前に封じる意思決定こそが企業の持続性を守るカギだ。



















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