罰金だけでは済まない?【EU法規制】甘く見る経営者が陥る深刻なサイバーリスク、「CRA」「NIS2指令」への対応が進む企業と遅れている企業の差

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すでに対応を進めている日系企業では、本社主導の下で欧州統括会社が中心となり、欧州の子会社ごとにNIS2指令の該当性を判定し、各国の国内法への移行を注視しながら取り組んでいます。ISO27001等を基準に、欧州ガバナンス体制や社内規定の整備を行い、欧州委員会の実施規則(Implementing Regulation EU 2024/2690)やENISAの技術実装ガイダンスを参考にしています。

対応が遅れている企業では、NIS2指令の認知度が低く、「国内法化されていないため対応不要」「欧州子会社のみが対応する」等と誤認も見られ、経営層の関与不足や予算・人材の制約も障壁となっています。法令遵守にとどまらず、信頼性と競争力を左右する経営課題として捉える視点が求められます。

経営層が持つべき「3つの視点」

CRAとNIS2指令は、もはや技術部門だけで完結する課題ではありません。とくにNIS2指令では、経営層の説明責任と関与義務が明文化されており、対応の遅れは企業の株価下落や信用失墜、法的責任、さらには事業継続リスクに直結します。

EUに製品を輸出する企業やEU域内に拠点を持つ企業はもちろん、EU企業のサプライヤーとしてかかわる日本企業も、規制の影響を受けます

CRAとNIS2指令対応は今や、取引先からの信頼を得るための「取引条件」に変わりつつあり、サイバーセキュリティを経営戦略に組み込むことは不可欠といえます。そのため、経営層は次の3つの視点が求められます。

【1】リスク管理の視点
サイバーリスクは財務・法務・レピュテーションに直結する「経営リスク」です。取締役会レベルでの定期的なレビューが求められます。
【2】組織文化の視点
経営層が率先してメッセージを発信し、全社的な意識改革と教育を推進することで、セキュリティ文化を根付かせることができます。
【3】グローバル競争の視点
CRAとNIS2指令対応は、海外市場での信頼性・選定優位性の獲得につながります。

CRAとNIS2指令への対応は、単なる法令遵守やリスク回避ではなく、経営層が今すぐ取り組むべき戦略的な経営判断なのです。ESGやガバナンス評価にも直結するため、中長期的な事業価値を高める「攻めの投資」と捉えるべきです。

経営層が率先して対応を進めれば、企業全体のレジリエンスを高め、グローバル市場での信頼と競争力を確保できるでしょう。

東洋経済Tech×サイバーセキュリティでは、サイバー攻撃、セキュリティーの最新動向、事業継続を可能にするために必要な情報をお届けしています。
保坂 範和 KPMGコンサルティング Technology Risk Servicesアソシエイトパートナー

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ほさか のりかず / Norikazu Hosaka

大手国内電機メーカーにて13年間、暗号研究、セキュアコーディング、脆弱性検査、情報・制御システムのリスクアセスメント、 セキュリティ製品導入支援などに従事。IT・OT両領域におけるサイバーセキュリティ分野全般に豊富な知見と実務経験を有する。2017年にKPMGコンサルティングに入社後は、大手製造業およびエネルギーインフラ企業を中心に、工場・プラントの情報・制御システムの構成調査、リスクアセスメント、ペネトレーションテスト、戦略ロードマップ策定支援、PMO支援、IoTセキュリティ製品導入支援など、幅広いプロジェクトに携わっている。

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