OECD調査【TALIS2024】日本の教員また「仕事時間が世界最長」、自己効力感や満足度低く「5年以内に離職が2割」の可能性?教職員を大切にする政策を

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前述のとおり、TALIS調査の設問は主観的なものなので、解釈には慎重である必要はあるが、日本の教員の自己効力感や職務満足度は低い。前述した分析結果や国内のデータを併せて見ると、日本の教員で今後離職する人が増える可能性は高い。

教えることにはやりがいはある、働く環境・条件が問題

ネガティブな話ばかりではなく、よいところにも注目すると、「教えているときにしばしば幸せを感じる」「熱意をもって教えている」「教えることの面白さややりがいに満足」という回答は9割前後ある。これは国際平均よりどうこうというよりも、十分に高い値と見てよいだろう。

教職の充実度
(出所)文科省・国立教育政策研究所「OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2024報告書のポイント」

言い換えれば、授業や学級経営が比較的うまく進み、校長や同僚とも関係がよい場合は、日本の教員の満足度やウェルビーイングは低いわけではない。文科省「教員勤務実態調査」(2022年実施)でもワーク・エンゲージメント(活力や熱意、没頭を測定したもの)は高い。

問題は、そうした部分ではないところにある、と考えたほうが妥当だろう。つまり、授業や学級経営につまずいたとき、周りからはあまり助けてもらえず、子どもとの関係もうまくいかない。保護者との関係も悪化する。あるいは業務量が多くて日々余裕がない。何のためにやっているのかよく分からない仕事が増えてきた……。そういう気持ちになっている教員も少なからずいることが、今回のTALISでも示されている。

自己効力感や自分が「大切にされている感」が低くなっている教員(あるいは教員以外のスタッフ職についても同じだが)を、学校としても、政策としても、放置したままにしてしまうと、今後病む人や離職者は増え続けるだろう。

業務時間が世界最長であることも、もちろん大きな問題だ。ほかの先進国のように残業ナシが当たり前にしていくためには、日本ではそもそも、教職員の勤務時間開始前に子どもたちが登校してきて、勤務時間終了後も残っている(部活動や補習など)こと自体がオカシイのだ。

加えて、ここで紹介したように、時間だけではない関連問題にももっと目を向けて、対策を講じる必要がある。

職場内外での育成やサポートは不足していないか。本来、人材育成や困難な学級の支援が大切な校長や教頭に、さまざまな書類仕事や講師探しなどを押し付けて時間を奪っていないか。教員がやらなくてもいい仕事までいろいろと増やしていないか。傾聴が大切とばかり言って、理不尽な要求等に耐え忍ぶことを強いていないか。欠員、人手不足に無策で、残った人に「子どもたちのためですから、ここをなんとか頑張ってください」と精神論ばかり言っていないか。

当たり前の話かもしれないが、今いる教職員たちをもっと大切にしていく政策や取り組み(子どもの登校時間や部活動をどうするかなどの家庭・社会の側の歩み寄りも含め)が、離職防止にもプラスだし、教職を志す人を増やすことにもつながる。

東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。
妹尾 昌俊 一般社団法人ライフ&ワーク代表理事、OCC教育テック大学院大学 教授

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せのお まさとし / Masatoshi Senoo

徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー。主な著書に『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』『先生を、死なせない。』(ともに教育開発研究所)、『教師崩壊』『教師と学校の失敗学』(ともにPHP研究所)、『学校をおもしろくする思考法』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中。

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