ロシアに変化を起こすのは「プーチンの死去」のみーウクライナ侵略で断絶した独露関係…『ドイツ―ロシアの1世紀』クロイツベルガー教授に聞く
どうしても交渉の過程では、領土問題、将来の国境線の問題を交渉し決定しなければならない。クリミアと、ロシアが軍事的に占領した東部ウクライナに関していえば、西側はこうした領土の移動を、事実として(de facto)認めたとしても、法的に(de jure)に認めてはならない。
最近の歴史では、そのような処理がよい結果をもたらした好例がある。
ドイツは戦後、40年以上分断されていた。西ドイツと西側同盟諸国はこの状態を国際法上、一度も認めなかった。ソ連共産党書記長のゴルバチョフが、1990年のドイツ統一を可能にし、それによって欧州の冷戦秩序に代わる国際秩序を実現することになって、それは実を結んだ。
誰もプーチン後の国際秩序がどのようになるかわからない。ドイツ統一のようなシナリオを可能とするため、ウクライナ問題の解決のためにはできるだけ多くの選択肢を保つ必要がある。
――根本的な問題として、欧州はなぜウクライナを支援しなければならないのか。
ウクライナは、西側との結びつきを求め、西側の秩序、NATO、欧州連合(EU)に加わろうとしている。それのみが圧倒的に力が勝った侵略者ロシアからの安全を保障するからだ。
そして、ウクライナは戦争によって、自国の領土保全と生存を守っているだけでなく、西側の自由を防衛している。間接的にプーチンの戦争によって脅威にさらされている西側を防衛している。間接的にドイツと西側はこの戦争の当事者だ。
他方、プーチンの支配下にあるロシアは、独裁国家であり、指導民主主義を自任しているが、自由民主主義とはまったく違う。
プーチンは自由民主主義を指導力、決断力が弱いとして侮っている。決然とした者の主張だけを受け入れる。プーチンはウクライナに対して戦争を行うだけでなく、法に基づく秩序という原則をともにする国々に対する好戦的な発言を繰り返している。これではロシアと協力することはできない。
かつて「対話で解決」が有効だった背景
――軍備増強よりロシアとの対話を求める主張をどう思うか。
1970年代のブラント西独首相(当時)の新東方外交のように、(ソ連など共産圏諸国との)対話によって、緊張を緩和することができるという考え方がある。
しかし、ブラントが新東方外交をしたのは、冷戦下のことで、今日のように欧州で熱戦(実際の戦争)は起こっていなかった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら