灘中「算数入試」の狙いとは?灘校の数学教師に聞く「できる子」を飽きさせない授業の秘密 「数学ができる」は人に分かりやすく説明する力

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「灘校の生徒たちは入学時点で数学の基礎力が身についているため、彼らが退屈せず、緊張感を持って学べるペースで授業を進めた結果、このような進度になりました。物理を学ぶには微分・積分やベクトルの考え方が重要ですし、化学のpHの計算には対数の概念が必要です。早期に高校数学を学ぶことは、他の科目を学ぶうえでも大きなメリットがあると考えています」

「なぜその答えになるのか」を説明できる力を伸ばす

東京大学大学院で数理科学研究科の博士課程を修了し、母校の数学教師となった河内氏は、算数・数学の魅力を次のように語る。

「算数には『補助線を引くことで答えを導き出せる』といったパズルのような楽しさがあり、好奇心をくすぐる謎解きとしての面白さがあります。これは学問としての数学も同様で、まだ解けていない問題に対して、その謎をいかに解明しようかと挑んでいく楽しさがあるように思います。数学の世界では先人たちが多くの謎を解き明かして、その理論を体系的に整理してくれています。その道を順に進むことで新たな世界の広がりを実感できるのも、数学を学ぶ醍醐味です」

さらに、「数学で使われる言葉は定義が明確なため論理的な説明がしやすく、互いの考えを伝え合うコミュニケーションが取りやすいことも、楽しさにつながる」と河内氏は言う。自分の考えを論理的に伝える力を身につけることは、数学ができるようになるうえでも重要なポイントになるそうだ。

「『数学ができる』とは、知識や経験、思考力を総動員して問題を解けることに加え、自分が出した答えがなぜ正しいのかを順を追って他者に分かりやすく説明できる能力があることだと思います。先人が作り上げてきた学問体系を身につけると、それを踏まえて自分の考えを他者に整然と説明できるようになり、そのような人が『数学ができる』と評価されるのではないでしょうか」

河内氏の授業では、生徒がコミュニケーションの中で自身の考えを説明することを重視し、各自で問題を解いた後、3分間ほど周囲の生徒と互いの考えを共有する時間を設けているという。過去には、数学が苦手な生徒と得意な生徒が意見交換をすることで互いに学びが生まれるように、3人1組でのグループワークを取り入れていたこともあるそうだ。

また、数列の性質を見つける際などに、「具体的な数で考えてから一般化する」ことを重視しているのも河内氏の授業の特色だ。

「算数・数学の学習は、具体的なものを使って考えることから始まり、少しずつ抽象度が上がっていくため、具体と抽象を行き来しながら思考できる力は非常に重要です。私自身、大学で抽象的な理論の学習から入り、自分が何をしようとしているのかを見失いかけたことがありました。その経験から、授業では具体的なイメージを持った状態で抽象的な理論に入っていけるようにすることを心がけています」

単元同士のつながりを意識させる工夫を

河内氏は「公式の丸暗記ではなく、いろいろなことを総合的に学べるように」という考えに基づき、授業ではさまざまな工夫をしているという。

「例えば、三平方の定理を教える際は、1時間かけて複数の証明方法をじっくり紹介します。さらに、定理が導き出されるまでの歴史的なエピソードや、その定理がどのような場面で使われているかも説明しています」

灘校では、通常の授業とは別に、希望者が探究的な学びに取り組む土曜講座も実施。定規とコンパスだけでは作図が不可能な「角の三等分問題」にグループで取り組み、折り紙を折ることで解決の糸口を見出して証明につなげていくという実践も行っている。

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