大阪の文化建築と歴史を味わう旅へ 《重要文化財「綿業会館」のクラシカルな様式美に迫る》 大人気!季節の料理も楽しめる一般見学ツアーとは
こうした「日本の綿業の進歩、発展をさらに図るため」と東洋紡績(現・東洋紡)専務だった岡常夫氏による遺言で綿業会館を創設することになったのだ。遺族より寄付された100万円と業界関係者からの50万円の寄付(現在の貨幣価値にすると約75億円相当)により、会員制クラブのための建物が着工された。

倶楽部の会員数は500名ほど。平均年齢は60〜70代で、時折30代の若年者もいる。その多くは企業の役員クラスであり、重責を担う者の社交場として活用されている。岡氏の基本理念のもと、会員相互の交流を図るとともに、各種関連団体と連携をして文化的活動に関する事業を通じ、社会各界の発展に寄与することを目的とした活動を行っている。
また海外の来賓を招く際の迎賓館としても活用されていた。一般社団法人日本綿業倶楽部 専務理事の槙島 昭彦氏はこう話す。
「開館約2カ月目には満州事変の調査のために、国際連盟が派遣したリットン調査団が大阪に来訪し綿業会館にも立ち寄っていた。資料を見ると、東京に足を運んだ後に中国に向かったとあり、大阪に立ち寄ったという記録がない。
しかし別の資料によると、一行が東京に入った後、横浜経由で大阪に来られて立ち寄った履歴があり、その際に談話室を利用した。当時リットン調査団の主眼は日中の関係の調査であった。大阪と中国は綿紡績業が非常に盛んだったので、公にはされてなくとも私たちの元に立ち寄ったのではないかと推察している」
リットン調査団をはじめ、ルーズベルト大統領夫人やヘレン・ケラー、吉田茂をはじめとした歴代首相など、歴史上に残る人たちが来館している。
文化財指定の迎賓ルームは5つの様式が混在
「綿業会館」の設計及び施工には、大阪の代表的建築家・渡辺 節氏、主任製図師には村野藤吾氏が参画した。村野氏は渡辺節建築事務所出身であり、いわば渡辺の弟子のような立場である。
建物の特徴的な点は、1つの建築様式ではなく、世界各国の様式を取り入れてつくり上げられている点だ。例えばイギリス様式だったら全部イギリス様式でまとめる、イタリア様式だったらイタリア様式でまとめるというのが当時の流れだったが、綿業会館の建物内には5つの様式の部屋が存在している。
1つの建物の中に様々な国の様式が入っている例は珍しい。後にこの点が重要文化財指定の際のキーポイントとなり、文化庁からも「国際色が豊か」と言葉をかけられたという。
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