筆者は以前から、「人手不足」問題(供給力の減少)がインフレ圧力になるというストーリー(ナラティブ)に対して否定的である。
むろん、供給力が落ちれば需給バランスがタイトになる可能性が高まるが、そのときに需要がどのようなふるまいをするかという不確実性がある。
先ほどの例で言えば、例えば40代が50~60代にシフトしていく過程では、「供給超過⇒需要超過」になっていくことが予想され、経済はインフレ的になりやすいだろう。
しかし、20~30代が40代になっていく過程では、需給バランスはデフレ的(ディスインフレ的)になることになる。
やはり、物価に与える影響は、需給バランスをよく確認しなければならないため、一筋縄ではいかない。
“ピュア”な需要と供給を測る難しさ
むろん、需給バランスは個人差があり、前述した世代ごとの考察には異存があるだろう。そもそも、ピュアな需要と供給の力を測ることは容易ではない。
ここで、「ピュア」と書いたことには意味がある。例えば、需要については個人消費の統計などで測ることができる。世代別の消費額を求めることも容易である。
しかし、実際の消費額が需要の強さを示すとは限らない。これは、潜在成長率と実際の成長率が異なる関係であることと同じである。おそらく実際の消費額は潜在的な需要を示している可能性があるものの、例えば若年層では流動性制約によって消費が制限されている可能性が高い。
一方、労働供給力については景気循環の影響を大きく受ける(働きたくても求人がなくて働けないケースなど)。
いずれにせよ、潜在成長率が推計値であるように、潜在的な(ピュアな)需要と供給を直接的に示すデータは存在しないのである。
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