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最高裁が生活保護引き下げ訴訟で違法判決。問題視された「不透明な減額過程」の背景にあったのは、自民党政権への忖度だった

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これほど大きな差が生じた理由は何か。厚労省独自の物価指数は、総務省の物価指数を構成する品目から生活扶助の対象外である品目を除いたうえ、総務省の物価指数が用いる一般家庭の消費支出の割合をベースに算出されている。そのため、この間価格が急落したパソコンやテレビなど、生活保護世帯があまり買うことのない製品の価格下落が大きく反映され、実際の生活保護利用者の消費実態とはかけ離れたものになってしまったのだ。

しかも、こうした「物価のみ」を根拠とした水準の見直しは、過去一度も行ったことがない初の試みだったにもかかわらず、これまで見直しにあたって通常行われてきた社会保障審議会生活保護基準部会での専門家の審議も経ずに、厚労省当局が独断で採用している。しかも具体的な判断過程も明らかにしていない。裁判で原告から「恣意的な計算による物価偽装だ」と批判されたのはそのためだ。

迫られる200万人超への差額支払い

最高裁はこの不透明な減額過程を問題視した。国の判断に裁量権の逸脱や濫用がある場合に違法となるとの判断基準を示したうえで、「デフレ調整」について、物価変動率だけで消費実態を把握するには限界があり、さらにこれのみを指標に使うことに、専門部会の審議を経ていないなど、合理性を基礎づける専門的な知見があるとは認められないとして、「国に裁量権の逸脱、濫用があり、生活保護法に反し違法」と結論付けた。

最高裁の判決が出たことで、国は原告以外も含めて当時の利用者200万人超への差額の支払いを迫られる可能性が大きい。減額された総額は当初3000億円程度と見られていたが、生活保護問題に詳しい立命館大学の桜井啓太准教授によれば、そこからさらに1000億円以上の上積みが見込まれるという。

また生活保護の基準額は、就学援助や保育料の減免、国民健康保険料・介護保険料の減免など、低所得者の生活を支える多くの制度と連動しており、その数は47に及ぶ。こうした制度の利用者が被ったそれぞれの不利益への対応も求められそうだ。

判決を前に最高裁に向かう原告団ら。横断幕に書かれた「土台沈めばみんなが沈む」は、生活保護の基準額が多くの制度と連動することを示す(記者撮影)

これから国が迫られる対応は多岐かつ甚大であり、敗訴が確定すればこうした事態に陥ることになると国も容易にわかっていたはずだ。にもかかわらず、国は最後の主張の機会である最高裁の弁論の場に至っても、「基準の改定には厚労相に極めて広範な裁量権がある」などという、苦しい主張に終始した。それは2013年からの厚労省の基準引き下げに至った過程が、最高裁が指摘した通り極めて不自然かつ不透明だったことを、本音ではもはや国も認めざるを得なかったためだろう。

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