注目の「公立高校の併願制」、"新たな恩恵"と"偏差値至上主義の助長"への懸念 個性の時代に合った公平な制度をつくるには?
全生徒が第1志望の高校に進学できるわけではない以上、どこかの高校が第2志望の受験生を受け入れる役割を担う。専門高校がその受け皿となったとしても、そこで生徒が新たな興味や適性に出会い、自分の可能性を広げていけるような場であってほしい。
実際、ある商業高校の教員は、「本校は最初から商業に興味を持つ生徒だけでなく、普通科志望がかなわず入学する生徒も一定数います。けれど彼らもしだいに商業の学びの面白さに目覚め、大きく成長していきます」と語る。
併願制の導入は、専門学科にとって「第2志望で選ばれる」ことを前提に、自らの魅力を積極的に発信していくチャンスでもある。
「併願制」は低所得家庭の選択肢も増やすが・・・
併願制の導入は、とくに低所得家庭にとって恩恵が大きい。複数校志願できる併願制であれば、志望度を下げずに受験でき、「絶対に公立に行ってほしい」という経済的事情にも対応しやすいからだ。
今、こうした「絶対に公立」を希望する層は増えているのかもしれない。政治家は「授業料無償化で、私立高校にも通えるようになった」とよく言うし、世間にもそうした認識が広がっているように見えるが、最近、それは一部の実態に過ぎないと実感している。
例えば、所得水準が高くない都内のある地域の公立中学校事情に詳しいPTA関係者は、「ここ数年、私立高校を受験せず、都立高校一本に絞る家庭が増えているように感じる」と話す。
偏差値40台後半のある都立高校の説明会資料にも、合格者のうち無視できない数の中学3年生が都立である同校一本で勝負している現状が記されていた。私が学習ボランティアとして関わっていた中学3年の生徒も、私立高校は一切受験せず、都立一本で勝負した。
上の子を私立高校に通わせている都内の家庭の保護者もこう話す。
「確かに無償化政策で授業料は補助されるけど、最初は全額を立て替える必要がある。制服代、施設費、寄付金、修学旅行、校内講習……全部含めると、3年間で100万円以上は都立と差が出る。だから下の子は都立に行ってほしい」
一方、SNSではこんな声を見かける。「併願制なんていらない。うちの子の志望校が入りにくくなるだけ」といった保護者の投稿。ある都立の進学指導重点校の生徒は、「ダメだったら私立に行けばいい。都立に併願制なんて甘えだ」と書いていた。“恵まれた側”には見えにくい、切実な現実が確かにあるのだが、こうした投稿を目にするたび、何とも暗い気持ちになる。
併願制の導入は、低所得家庭の選択肢を増やし、専門学科にとっても新たな可能性をもたらす。だが、その設計を誤れば、かつての偏差値至上主義に逆戻りしかねない。制度を変える先に、私たちはどんな未来を描くのか。個性と公平を両立できるかは、その問いへの向き合い方にかかっている。
(注記のない写真:ふじよ/PIXTA)
執筆:高校受験塾講師 東田高志
東洋経済education × ICT編集部
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