注目の「公立高校の併願制」、"新たな恩恵"と"偏差値至上主義の助長"への懸念 個性の時代に合った公平な制度をつくるには?

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「個性の時代」にふさわしい「併願制」はあり得るか?

併願制の導入は、こうした“個性で選ぶ”傾向に水を差す危険性をはらむ。生徒の個性に応じた進路指導がなされなければ、偏差値順に出願校を並べる“昭和の収容時代”へ逆戻りしかねない。

とくに塾の進路指導は大きな影響力を持っており、多くの大手塾は「1ランクでも上へ」という空気を醸成する。その中で仮に併願制が実現すれば、「日比谷―西」「小山台―三田」といった、校風も教育方針も無視した偏差値順の志願が増えるのは目に見えている。

“個性で選ぶ”進路選択を維持するには、進路指導者の姿勢がカギになると言っても過言ではない。学校はもちろん、私たち進学塾も、併願先も含め、きちんと特色を見て選ぶように生徒たちに伝えていく必要があるだろう。

また、各高校も偏差値頼みの高校選びをさせない仕掛けを用意する必要がある。例えば「本校は○○高校と教育方針が近いので併願が多いです」と、相性のよい併願先を学校自ら発信するのはどうだろうか。一般入試では科目数や配点に差をつけ、求める資質を明確にする。推薦入試では、教科学力だけでは測れない適性を見られるような大胆な選考があってもいいだろう。当然、個性化を推進するための予算の準備も欠かせない。

現在議論されているDA方式では、特定科目の比重を高めるといった裁量は可能だが、それだけでは序列化の流れに抗するには不十分だ。

例えば、一般入試を1日目・2日目の2段構えにし、1日目に英・数・国の共通問題を実施、2日目に理・社の共通問題に加え、難関校や芸術系などの専門学科では特色に応じた独自問題を課すという仕組みも考えられる。独自問題を課す学校同士の併願は不可とすることで、併願制と特色化を両立できる。

併願校数を2校までと上限を設けることも、個性で選ぶという風潮を退化させず、併願優遇のシステムで生徒数を確保する私立高校とのバランスをとるうえで有効だろう。併願を無制限に認めれば、高校と入学者との間でミスマッチが生じやすくなり、学校の特色が薄れるばかりか、高校中退率の上昇を招く恐れもある。

【東田氏が考える一般入試の制度設計】
1日目:英・数・国の共通問題
2日目:理・社の共通問題(+難関校や専門学科では独自問題)
※独自問題を課す学校同士の併願は不可
※併願校数は2校まで

高校がそれぞれの個性をアピールし、受験生も自らの資質や志向に応じて学校を選ぶという本質的な「脱偏差値化」の流れを守り育てるために、制度設計には丁寧な工夫が求められる。

「専門学科」にとっても魅力を発信するチャンス

また今こそ、併願制の導入で期待できる効果もある。

少子化が進む今、高校教育は新たな「収容問題」に直面している。とりわけ深刻なのが、専門学科の定員割れだ。都内の多くの工科高校は慢性的に定員を満たせず、この状況が続けば将来の技術者不足が私たちの日常生活を脅かしかねない。一定の国や自治体主導による“誘導”は不可欠だろう。

地方では普通科高校が少ないため、偏差値50を下回ると自然に工業科が視野に入る。ところが東京都では、偏差値50未満の普通科が私立・都立合わせて山ほどあり、受験生が工科高校へ流れにくい。ある都立工科高校の管理職は「高校は普通科→商業科→工科高校の順に定員が埋まる」と漏らし、私立の授業料無償化が追い打ちをかけるのではと危機感を示す。

この専門学科の「収容問題」を緩和する策として、併願制は極めて有効だ。普通科の枠が一定以上の学力の子で埋まれば、漏れてしまった子は専門学科を考えざるを得なくなる。すると、専門学科もドミノ式に埋まる可能性が高く、普通科と工科高校を組み合わせた新しい併願パターンの誕生も期待できる。

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