画期的?公立教員の長時間労働に「一石投じる判決」、浮き彫りになる給特法の矛盾 「自発でなく指揮命令による業務」で労基法違反

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裁判の基本的ルールとて、原告が求めていない訴えを裁判所は取り上げないし、これら判決の事案では原告があえて労基法違反で損害賠償を求める必要もなかった(甚大な健康被害の「損害」賠償を求めれば足りた)。そんな背景もあり、労基法違反を認める(求めた)判決がこれまでほとんど存在しなかったのだ(埼玉教員超勤訴訟は特異な例だ)。

今回の高松地裁判決は、教員に健康被害が生じ安全配慮義務違反が問題になるケースではないのに、労基法違反を理由に損害賠償の支払いを命じたもので、給特法の矛盾に満ちた労働時間解釈を浮き彫りにする意味もある

人権課題である公立教員の労働問題

令和5年度の教育職員の精神疾患による病気休職者数は7119人と過去最多を更新するなど、教員に甚大な健康被害が生じている。また、教員の長時間労働が放置されることも影響し、教員志望者減少も歯止めがかからない。

そんな要因の1つは、公立教員の長時間労働を生み出す給特法だ。

給特法は、労基法の「特例」として、労基法が定める長時間労働抑制の多くを適用除外とする。あらゆる職場で長時間労働抑制策のため「常識」である厳格な労働時間管理も給特法により否定される(持ち帰り残業も含む把握義務があるが、現状の在校等時間管理では労働時間管理義務は果たされていない)。どれだけ残業しても時間外勤務手当等の支払いがなされず(残業代という制裁を科すことで長時間労働を抑止するのが残業代制度の趣旨)、残業代という長時間労働抑止策もない

労基法が抑止しようとする長時間労働は、過労死等により労働者(教員)の命と健康を蝕む重大な人権侵害である。

本来、労基法の労働時間に関するルールは「最低」基準とされ、労基法を下回る労働条件は、憲法27条2項違反の人権侵害ともなる。今回の判決が、宿泊学習などの限定的場面の労基法違反を取り上げているだけなのに、5万円の国家賠償の支払いを認めたのは、こういった労基法違反の重大性を前提にしているからだ。

労基法違反が問われなかっただけで、上記の通り、これまでも安全配慮義務違反による損害賠償の支払いを命じる判決は多数存在する。

今回の判決をも踏まえ、給特法が労基法の長時間労働抑止の制度を排除している根本的な問題が、改めて問われるべきだろう。

(注記のない写真:Ushico / PIXTA)

弁護士 嶋﨑 量
東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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