画期的?公立教員の長時間労働に「一石投じる判決」、浮き彫りになる給特法の矛盾 「自発でなく指揮命令による業務」で労基法違反
これに対して、今回の高松地裁判決は、東京高裁判決を参照しその理論的な判断枠組みを承継しつつも、結論として原告の損害賠償請求を認容した点で意義がある。
具体的には、公立教員の業務は自主的で自律的な判断に基づくものと校長の指揮命令に基づくものとが日常的に渾然一体として行われ峻別が通常困難であること、厳密な労働時間管理が困難であることが指摘され、教員の勤務実態が労基法等に違反していても、つねに国家賠償法上の違法性が認められるとは考えられないとした。
しかし、この判決では違法性が認められた。具体的にはこうだ。教員の業務には校外学習の引率業務など校長が詳細な指揮命令を発出した上で実施される業務もある。その場面では教員が自律的な判断を要する場面は少なく、校長の指揮命令に基づいて業務に従事しているといえ、労働時間の管理も容易であるとして、宿泊学習とこれに先立つ学年団会議について校長の指揮命令を認め、労基法32条違反等により3万円の損害賠償の支払いを命じた。
また、上記の宿泊学習と学年団会議の間に労基法34条が定める休憩が付与されていないと認定して違法であると認め、2万円の損害賠償支払いも命じている(合計5万円の損害賠償請求認容)。
「矛盾に満ちた」給特法下の労働時間の認定
限定的であれ、損害賠償請求を認容した本判決の意義を理解するためには、公立教員の労働時間に大きな影響を与える給特法の理解が不可欠だ。
給特法は、一定の教職調整額を支給する代わりに、時間外勤務手当等は支給しないとされ、他方、超勤4項目(校外実習等、学校行事、職員会議、非常災害等)を除き、教員に時間外労働を命じられないのが建前とされる。
しかし現実は、4項目以外の教員の時間外勤務が常態化している。この矛盾を説明するべく、行政解釈では教員が「自発」的に業務遂行しているとして、恒常的な時間外勤務を正当化し、裁判所の司法判断もこの解釈を受け入れている。
今回の判決は、この給特法下の労働時間解釈でも、校外学習等について(自発性を否定し)校長の指揮命令を認め、刑罰もある労基法違反を認定した点で、重要である。
実は、これまでも公立教員の長時間労働に対して損害賠償の支払いを命じる判決は多数存在するので、今回の判決は賠償を命じたという点では新規性はない。
例えば、新任教員の自死が長時間過重労働による精神疾患が原因だとした以下の判決が挙げられる。
ただし、これら判決で労基法違反は正面から問われていない。いずれも労基法違反が放置された結果、甚大な健康被害が出ている事案であるが、訴訟では安全配慮義務違反により健康被害等の「損害」賠償請求がなされ、賠償が命じられているのだ。