【前編】日本の吹奏楽部が抱える「感性の危機」?プリンシプルなき地域展開が招くもの コンクールがはらむ見過ごせない数的事実とは

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Tsay氏の実証実験は、あるピアノの国際コンクールの上位3名の演奏から、結果を知らないプロアマ混合100人以上に、以下の情報で優勝者を当てさせるというものである。

(A)演奏映像と音源両方を聴かせる
(B)音源のみ聴かせる
(C)音源は聞かせず演奏映像のみを見せる

 

事前のアンケート等の調査では、評価のためには「音が重要であるはず」という回答が8割を超えていた。しかし実験結果では、(A)および(B)の情報では、優勝者の予想が3名の演奏者に比較的平均的にバラけてしまい、(C)映像のみの情報の場合に、優勝者を当てる確率が50%前後と高くなるという結果が出たのである。

この実験では3名から優勝者を予想するため、33.3%程度がチャンスレベル(それぞれが等確率で選択される場合の比率)となることからも、(C)映像のみの場合の正答率の高さは注目に値すると言える。

そして三摩氏が吹奏楽コンクールに応用した実験の結果でも、(C)映像のみで、コンクール優勝者に最も多くの票が集まったのである。

慶應義塾大学大学院博士課程 音楽神経科学 三摩朋弘氏の「視覚優位性効果は評価者の音楽経験と視聴覚統合の相互作用に依存する:日本の吹奏楽コンクール映像を用いた検証」
全実験参加者の評価結果。(C) 映像のみの正答率が、(A)演奏と音源・(B)音源のみよりも上回っている。
(出所:Samma T, Honda K, Fujii S (2025) Sight-over-sound effect depends on interaction between evaluators’ musical experience and auditory-visual integration: An examination using Japanese brass band competition recordings. PLoS One 20(4): e0321442.より(リンク)。図は三摩氏提供)

このことは何を示しているのだろう。「音」が演奏の良し悪しを決定する最重要要素ではなかったのか。

三摩氏は、この実験を、被験者を「非吹奏楽経験者」と「既吹奏楽経験者」に分けて再び行っている。その結果、非経験者はTsay氏の研究と同様に、目立ってコンクール優勝者に得票が集まったのが(C)映像のみであったのに対し、既経験者は、驚くことに(A)(B)(C)がほぼ同じ得票になったのである。つまり、既経験者の得票ではコンクール勝者が明確化できなかった、ということである。

非吹奏楽経験者および既吹奏楽経験者の評価実験結果
非吹奏楽経験者および既吹奏楽経験者の評価実験結果。非吹奏楽経験者においては(c)映像のみの正答率が音源を含む条件よりも有意に上回っている。一方で既吹奏楽経験者においては条件間での統計的な差異は見られない
(出所:Samma T, Honda K, Fujii S (2025) Sight-over-sound effect depends on interaction between evaluators’ musical experience and auditory-visual integration: An examination using Japanese brass band competition recordings. PLoS One 20(4): e0321442.より(リンク)。図は三摩氏提供)
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