児童が"ルールをつくる"新渡戸文化小、狙うは「仕組みを変えた成功体験」 教員ら「社会は変えられない」の風潮に危機感

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1年生と6年生がお互いの言葉をよくわからなくても、まずは相手の話を聞く、相手が一生懸命話そうとしているのを感じ取る、ということ自体が対話なのです。そう考えると、子どもたちは対話で『相手の言っていることが理解できる』以上のことが味わえるということなのです」

全校ミーティングに込めた学校と教員の思い

新渡戸文化小学校ではプロジェクト(課題解決)型学習に力を入れており、プロジェクト科の時間配分をやや多めに配当している。全校ミーティングはプロジェクト科の時間や学級の時間を使っている。ファシリテートする教員にとってもチャレンジングな取り組みだが、なぜ全校ミーティングをやることになったのだろうか。

「1927年創立の本校は、平岩国泰が理事長に就任した2019年から教育改革に取り組んでいます。2020年に私を含めた多くの職員が加わり、新しい学校とは何か議論してきました。その中で、大きな柱の1つとして上がったのが“対話”です。

2019年当時に日本財団が行った18歳意識調査では『自分で国や社会を変えられると思うか』という問いに対して『はい』と答えた割合は、18.3%という最新の調査よりさらに低い結果が出ていました。学校教育に関わる者として、『そういう意識を学校の中で植え付けてしまったのでは』と振り返らざるを得ない、衝撃的な結果でした」

だからこそ、子どもが主役となってルールや仕組みを変える経験が必要なのだ──。公立の大規模校で勤務経験のある校長の杉本竜之氏を筆頭に、教員たちはその思いを強く持っていたという。

※日本財団「18歳意識調査『第20回 -社会や国に対する意識調査-』要約版」(2019年)より

プロジェクト型学習と対話は相互関係にある

「全校ミーティングには目的が2つあります。1つは自分たちでルールをつくるという成功体験を積むこと。その体験を通し『自分たちでしあわせな学校をつくる』ことを実感するはずです。自分の提案が記憶だけでなく仕組みに残る経験はなかなかありませんよね。社会を変えたいと思いつつ本当に変えられると思っていない大人が多いからこそ、学校の仕組みを変えたという原体験を持ってほしいのです。

そしてもう1つの目的は『対話を重ねて前に進む空気』をつくること。対話は、本校の柱の1つであるプロジェクト型学習と相互関係にあり、学びの活性化にもつながります。中にいると子どもたちの変化はわかりにくいもので、近所でお店を営む方に『何千人ものお客さんを見てきましたが、この学校のお子さんは自分の気持ちや意見を言える子が多いですね』とおっしゃっていただいたのが印象深かったです」

同校では対話を大切にしており3年生(2025年3月時点)は「対話と言い争いの違いは何か?」というサークル対話を行っている。

「サークル対話の中で、『言い争いは自分の言いたいことを言うことで、対話はまず聞くことではないか』と発言した子がいました。これは対話を重ねてきたからこそ出てきた言葉だと感じますね。こうした対話の文化で本校を満たしていけたらいいですね。そして、今後は多様性の理解にも光を当てていきたいと思っています」

全校MTGやその対話によって全員がすぐに成長するとは限らない。しかし、自分たちで学校やルールを変えることができたという成功体験は、子どもたちの心に残るのではないだろうか。それは種となってそれぞれのタイミングで芽を出し、インターネットでも見知らぬ人と出会い、言葉を交わす時代に生きる子どもたちの今と未来を生きる力になるはずだ。

(文:吉田 渓、編集部 晏 暁丹、注記のない写真・画像:新渡戸文化小)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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