児童が"ルールをつくる"新渡戸文化小、狙うは「仕組みを変えた成功体験」 教員ら「社会は変えられない」の風潮に危機感
1年生の提案で新設された「私服デイ」
全校ミーティングでは具体的にどのような提案が話し合われ、ルールチェンジが行われるのか。新渡戸文化小学校 校長補佐の遠藤崇之氏は、第5回を例に話してくれた。
「本校は制服があるのですが、第5回では当時1年生の女の子の『私服で学校に来てもいい日をつくりたい』という提案が選ばれました。1年生が出してくれたことにも驚いたのですが、その子は入学時点では人前で話すのは恥ずかしいというタイプでした。しかし、提案が選ばれるとみんなの前でしっかりプレゼンし、拍手を受けていました。3年生になった今(2025年3月時点)は、校内プロジェクトの中心人物として活躍しています」
話し合いの結果、年3回の私服デイが設けられることになったが、当時は教員側も不安を感じていたという。

「ハロウィンに近い私服デイもあったことから、『とんでもない服を着てくる子もいるかもしれない』とか『私服を揶揄されて傷つく子がいるのでは』と考えました」
そこで、話し合いのテーマを『みんながしあわせな私服デイにするには』と設定したという。その問いの源流にあるのは、同校の教育目標である「Happiness Creator(しあわせをつくる人になろう)」だ。
「話し合いを経て、子どもたちは“仮装するなら学校で着替える”“登下校時は安全のために制帽をかぶる”“相手が嫌な気持ちになることは言わない”というルールを自分たちで決めました」
対話はツールではなく理解し合う営みそのもの
児童の声から対話が生まれ、新たな仕組みをつくる新渡戸文化小学校。同校では「子どもが主語の学校づくり」を掲げているが、全校ミーティングで子どもが主役となって有意義な話し合いが行われるようにするために、教員はどのような役割を果たしているのだろうか。
「本校は“自律型学習者”を育てることを目指しています。そのためには大人の関わりを最小限にしたいのですが、子どもたちはよりよいやり方を知らないのも事実。そのため、伝えるべきことは伝えますし、段取りなども教員と代表委員が一緒に考えています。
第9回の『休み時間をのばしたい』というテーマは学校のシステムにも関わるので、“この曜日ならこうできる”という案を教員が出し、児童がそれぞれのメリット・デメリットを話し合う形にしました。しかし、対話の方向性や結論を教員が決めることはしません」

新渡戸文化小学校 校長補佐。大学卒業後、大手IT企業に就職。通信制大学で教員免許を取得し、NPO法人のフェローとして公立小学校の教員に転身。2020年より同校にて現職。コロナ禍におけるデジタル化対応や多数の教育変革活動に従事
教員はファシリテーターとして対話を見守り、「どうしたらみんなが幸せになるか」という言葉を投げかける。これが非常に大事だと遠藤氏は語る。
とはいえ、1〜6年生の全児童が参加するとなると、理解度にもばらつきがある。そこで、各クラスのペーパーをまとめた動画を作っており、文字情報では理解しきれない子も理解しやすくなるように工夫しているという。
その一方で、理解度の違いを超えた対話そのものに全校ミーティングの意義はあると遠藤氏は話す。
「全校ミーティングでの対話を、“答えを出すためのツール”や技術と捉えれば、理解度の違いは課題となるでしょう。しかし、対話は議論やディスカッションではありません。本校では教員も『対話とは何か』という研修を重ねており、『対話とはそこにいるメンバーで言葉を交わし、理解し合おうとする営みそのものだ』と捉えるようになりました。