ウォールストリート トッド・ハリソン著/酒井泰介訳
ウォール街の内幕物でありながら心の内側にも光を当て、祖父や父親との愛憎も含めた人間としての生き方に繰り返し立ち返る半生記。モルガン・スタンレーで若手トレーダーとして巨額の収入を得るものの9・11ショックに翻弄され、転進、成功、そして不動産バブルに売り向かい大負けする。「強欲の街の裏側」の苦悩が主題ではあるが、終幕の若者向け金融啓蒙サイトを立ち上げる話には著者の思いがこもっていて、すがすがしささえ感じられる。
カネの亡者としての成功と挫折の物語という縦糸に、著者がウェブ上のコラムニストとして才覚を発揮していく中で「稼ぐ」ことと「善く生きる」ことをめぐる葛藤および仲間との複雑な人間関係という横糸が綾なして話が進む。人気コラムを書き続けただけに文章は歯切れよく、訳文もこなれている。ビジネスの世界では動物になったほうが報われるが、現実の世界では自分らしく……という副題が素直に首肯できる。(純)
朝日新聞出版 1785円
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