環境や特性で「努力できない子」も伸びる、個人の「やる気」に頼らない指導法 宿題ゼロでも「学級平均95点」を実現できる工夫
「ずるい」の声には「平等」と「公平」の違いを説明
――個別の声かけのような配慮を、周囲の子が「楽をしてずるい」と感じたりすることはないのでしょうか。そうした場合にはどのように対応していますか。
もちろんあります。それは絶好のチャンスです。「あの子だけずるい」と言う子が現れたら、子どもたちを集めて「平等」と「公平」の違いを説明しています。
例えば社会科見学で何かを見るとき、背が低い子は後ろの列だと見えにくい。そういう子は前に配置したり、踏み台を用意したりすれば見えるようになりますね。これが「公平」ですが、学校教育では全員同じ条件のもとに置く「平等」を重視しているように思います。背が低い子も高い子も同じ高さで見る、これが平等です。そうすると、背が低い子は困ってしまいます。
漢字テストでの配慮は、背が低い子に踏み台を用意するのと同じことです。「全員を平等に扱うなら、先生は『体育が苦手でも逆上がりができるまで特訓』『嫌いな食べ物があっても給食は完食しなさい』と言うことになるよ」と子どもたちに言うんです。すると、「平等を求めると、時には自分にも無理な要求が返ってくる」ことを理解してくれます。
「子どもに努力を求めない」と決めると腹が据わる
――子どものやる気に頼らない指導を実践したいと考える教員の方に、アドバイスやメッセージをお願いします。
努力できる環境にない子、一人での努力が難しい子は必ずいます。でも、その子たちこそが「教育でしか救えない子」。勉強の仕方、努力の仕方がわかれば自分で歩き出せる子も少なくありません。その子たちは騒いだり暴れたりして授業を妨害することはなく、静かに困っているかもしれない。その存在にまずは目を向けていただけたらと思います。
「子どもの努力に頼らない」と決めると、自然と腹が据わります。教材を変えたり授業の進め方を工夫したり、いろいろなアイデアが浮かんでくるはずです。「手間がかかるから大変そう」と思うかもしれませんが、実は精神的にはいいんです。
例えば先にお話しした漢字テストの練習では、しっかりなぞれているか、きれいに書けているかを確認して、授業内で完結。子どもたちの頑張りに対して笑顔で「マル」をつけるだけですし、叱る必要もない。宿題なしなので回収してチェックする手間もない。先生たちもラクができる方法なんですよ(笑)。
小学校の教員である私が子どもと関われるのは、小学校を卒業するまで。その間に何ができるか。一番は「学び方を学ばせる」ことです。勉強の中身そのものというよりも「自分はこのやり方でなら勉強ができそうだ」という自分なりの方法を見つけてもらうこと。学びはずっと続いていきますから、その方法を身につけてもらうことが、私たちの使命かなと思っています。
(文:藤堂真衣、注記のない写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/ PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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