「吹奏楽部地域移行」難航の理由、大人が守るべきは「子どもの文化の持続」では? 団体の形を模索し直し、新しい文化展開考えて
ここで最も避けるべきは、現職の顧問や指導者たちが、自分の充実感やテリトリーを守るために、吹奏楽部にとっての学校活動の必要性を主張することだ。とくに吹奏楽部の顧問は、楽団の主たる指導者・指揮者として、子どもたちの熱い眼差しを一身に浴びることができる極めて特別な立場にある。しかし、本当に重要なのは、「この立場を守りたい」という大人側の希望ではない。これまで子どもたちとともに積み上げてきた、質の高い若者の吹奏楽文化を、いかに再構築するかである。
先述の統計やこれからの人口減少推移を見れば、吹奏楽部員数のV字回復は向こう20年間は“ない”だろう。それでも子どもたちと一緒に吹奏楽を通じた時間を過ごしたいのであれば、少子化を見据えた新たな吹奏楽部のあり方に向け、当事者たる大人一人ひとりが声を上げていくほかないはずだ。
吹奏楽の「新たな団体の形」を作ることが最優先
吹奏楽は多種多彩な楽器の色彩の融合体として、クラシックもポップもコンテンポラリーもカバーできる非常に魅力あふれた演奏媒体だと私は思う。若者の吹奏楽文化は、まさにこの多様性を支える大切な基盤であり、この基盤を瞬時に改革できるようなソリューションは“おそらくない”というのが私の考えだ。各団体の環境や状況を鑑みながら、時間をかけて育て直すしかない。ただ、いずれにしても、まずは新たな団体の形を作ることが最優先となることは間違いないだろう。
新たな団体のフォーマット例としては、以下が考えられる。
② 少人数の室内楽として、1校のみで活動する
③ 同自治体内、もしくは複数の自治体から複数校が集まって活動する
④ 既存の地域の一般団体と合同で活動する
⑤ 新たに地域で団体を立ち上げて活動する
⑥ 小中高の垣根を超えた、ティーンエイジャーの合同団体を立ち上げて活動する
そこには以下のような、中心となる運営団体とスポンサーが必要だ。
② 私立学校
③ 参加者の保護者や父母会
④ 地元企業やステークホルダーからの出資援助
少子化が進む自治体では、公立校と私立校が共同で学校を創設するという検討がなされている。また、公民館と学校が複合化して施設や設備を共有する事例もあると聞く。実際、京都市立京都御池中学校や埼玉県志木市立志木小学校のような学校と公民館等の施設の複合施設も全国にはすでに一定数存在している。
こうした施策が進むと、新しい文化が展開する可能性もあるだろう。例えば、吹奏楽に合唱や弦楽を含んだ複合型の音楽団体が誕生するかもしれないし、スポーツ系と文化系をハイブリッドさせた地域部活動にうまく組み込めるかもしれない。
故事成語にも「まず隗より始めよ」とあるが、今まで吹奏楽人のわれわれ大人に喜びを分け与えてくれた子どもたちのためにも、心ある誰かが「隗」にならなければならない。これまでの価値観から脱し、これまでになかった吹奏楽の価値を創出する、まったく新しい文化展開を考えるべき時代が、今、到来したのではないだろうか。
(注記のない写真:⭐JUN⭐ / PIXTA)
執筆:北海道教育大学 教育学部岩見沢校 准教授 渡郶謙一
東洋経済education × ICT編集部
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