波乱を呼んだ共通テストへの「情報」追加、公平性や必要性は?識者が論じる賛否 変わる大学入試、新教科追加の意義を問い直す

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大学入試と情報リテラシーの涵養は切り分けるべき

――「情報」を学ぶことの重要性と、「情報Ⅰ」を共通テストに追加することの意味は異なるということでしょうか。

そうです。私たちが「拙速」と訴えることに対し、「情報教育の重要性がわかっていない」「情報社会に後ろ向きだ」という声もありますが、そうではありません。私たちが批判しているのは共通テストへの追加であって、情報教育そのものは重要だと考えています。

むしろ情報教育の重要性を考えれば、共通テストに追加するよりも、共通テストを受けない人、大学に進学しない人も含め、すべての生徒に必要な情報リテラシーの育成に力を注ぐべきではないでしょうか。そのためにはまず、教育体制を整えるべきだと思います。

「入試改革を考える会」には、「情報Ⅰを担当したが、教科書を終わらせることができなかった」「中堅以上の進学校だが情報教育は非常勤講師に丸投げで、うまくいっていない」といった声も届いています。

それに、大学で教えている立場から申し上げると、国語と数学の学力水準の低下のほうに危機感を覚えます。専門教育のベースとなる国語ができないと話になりませんし、情報化社会だからこそ数学の水準を上げるべきでしょう。

――共通テストへ「情報」を追加することで、教育体制の整備が促進されるという意見もありますが、それに対してはいかがでしょうか。

たしかに、共通テストに追加することで情報教育が活性化する効果もあるかもしれません。でも、そのために受験生に不公平を強いるのは違うでしょう。大学入試を公平・公正に実施するという原則から、それはおかしいと考えます。

――社会がデジタル化して急速に変わっている今、共通テストも変わらなければならないという意見もあります。

共通テストはどういうテストであるべきかを考えると、シンプルに「高校での学習内容を理解できているか否かを客観的に判定する試験」だと思います。それが大学で学ぶ基礎になります。社会側からの要求をそのまま共通テストに反映しなければならない、とは思いません。社会からの要求に応えるためには、大学や大学院での情報教育や研究を充実させて優秀な専門家を増やすべきです。

[賛成派]社会が変わる中、学び方が変わらないほうが不自然

共通テストに「情報」を追加することの意義を発信しているのは、情報教育にまつわるさまざまな格差に取り組むNPO法人みんなのコード。未来の学び探究部 講師・研究開発担当で、長年公立高校で情報教育に携わってきた永野直氏に、「拙速な導入に反対」という意見に対する考えや、今年の共通テストで出題された問題(編注:取材は共通テスト後に実施)に対する所感を聞いた。

――共通テストに「情報」が追加されたことについて、どのようにお考えですか。

今は、予測不能で変化の激しい時代。教えられたことを暗記するだけでは社会に対応できなくなってきています。共通テストに限らず、2020年代に改訂された学習指導要領にも盛り込まれている部分ですが、自分で問題を発見して解決する力が必要不可欠になっています。

テクノロジーを活用して他者と協働しつつ、未知の問題に立ち向かう。こうした資質・能力を養うのが「情報」という科目です。共通テストに原則必須科目として追加されたということは、学部関係なく、大学で学ぶすべての人にとって必要だ、というメッセージだと考えています。

――他方で、教育体制が整っていないことを理由に「拙速」だという意見もあります。

教育体制に課題があるのはたしかです。まず、「情報Ⅰ」は必履修科目とはいえ2単位のみで、多くの学校で高校1年次に履修しています。2単位だけでは、本当に大事なことだけしか扱えないという教員の声もよく耳にします。

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