探究学習の最難関?失敗しがちな「テーマ設定」、博士号教員が語る攻略の極意 ヒントは対話や教科書に、「無理しない」も大切
筆者は生物分野で博士号を取っていますが、生物すべてに詳しいわけではありません。いわゆる「分子生物学」、DNAやタンパク質などの生体分子の働きに関する分野が専門です。「森林の生態調査」という分野について、もちろん高校の教科書や大学入試問題を指導できる程度の知識は持っていますが、「野山の動植物1つひとつを詳しく知っているか」というと、凡人レベルです。これはあまり知られていませんが、外見上の特徴での草木の学術的な種の判別は、その分野で相当な修業を積んでいないとできないくらい高等技術です。
よって、そのような分野での探究活動に関しては、生徒が誤った考察・判断をしたときに「ダメ出し」ができず指導教員として機能しないと自覚していますので、外部指導者のサポートが付くなどでない限りはできるだけ回避して、なるべく自分の得意な分野に生徒を誘導します。
「生徒の望みを叶えるべきではないか」という意見もあるでしょう。しかし、高校の教員も1人ひとり、分野の得意・不得意はあります。また、探究以外の仕事も日々抱えているのも現実です。授業のほかに学級担任や学校運営に関わる業務をそれぞれ担っています。探究の指導だけに莫大な労力をかけることができないのが実情です。
ほかの業務との両立のためにも無理はせず、ご自身の負担も少なく済む「得意な分野」で引き受けることをお勧めします。それが結果として生徒のためにもなります。「その内容は自分には無理」と言える勇気を持ちましょう。そして、慣れてきたら無理のない範囲で自分の幅を少しずつ広げてみるのが理想だと思います。
その先に「ポジティブな成果」がありそうか?
大学教員は、学生の卒業研究のテーマ設定をするときに「ある程度何らかの成果が望めるもの」を設定しています。成果が出ないと卒業論文が書けず困るからです。高校生の場合も、「このまま進んでいったら着地点はどうなるかな……」と指導教員側で予測し、できればちょっとでもポジティブな成果が残せる方向で探究活動を進めさせたいものです。
「高校生の探究は成果を出すことが目的ではない。失敗するのもよい勉強だし、探究の過程で手法や考え方を学ぶのが目的だ」というご意見ももっともです。ですが、やはりある程度努力したら、小さくても成功を掴むことができたほうが、「探究」に対してポジティブな気持ちで卒業できると思います。
予想どおりの成果が出ないのも探究の難しいところではありますが、ポジティブな経験ができた生徒は、きっと前向きな「探究マインド」を持ち続けることができるのではないでしょうか。そして、物事をよく見て考える豊かな人生を送ることにもつながるかもしれない――筆者はそう考えています。
(注記のない写真:kou/PIXTA)
執筆:秋田県立秋田高等学校 博士号教員 遠藤金吾
東洋経済education × ICT編集部
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら