探究学習の最難関?失敗しがちな「テーマ設定」、博士号教員が語る攻略の極意 ヒントは対話や教科書に、「無理しない」も大切

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

この成果は海外の科学雑誌にも掲載されました。始まりは教科書に書かれてある実験で、これ自体は新規性のないことですが、条件を変えることで新規性のある成果が得られたという好例です。

素材を別のものに変えて同じ手法で行う研究は、「銅鉄研究」と言われることがあります。「他人のまねで、新しい発想がない」ということで研究者の間では否定的に扱われがちです。

この仙台市の生徒たちは、素材を変えたわけではないので厳密には銅鉄研究ではありませんが、「教科書の実験と素材は同じで条件を変えた」という意味では銅鉄研究に近い発想から始まっています。しかし、その後、「生成した物質は何か」「この物質はどんな性質があるか」などさまざまな方向に生徒の発想で研究は広がりを見せていったそうです。

高校教育において探究活動を行う目的の1つとして、生徒の能力を伸ばすということがあります。その観点から考えると、既存実験から始まっていたとしても、その目的は十分に果たせています。また、教員にとっても教科書でよく知っている既存実験が起点になっていると指導しやすいという利点もあるのではないでしょうか。

「既存実験の条件をちょっと変えて……」ということならば、前述の【よくある事例】の会話文中に探究のタネはほかにも埋もれていそうですね。生徒自身は気付きにくいので、うまく見つけて引き出すのは指導教員の役割です。できれば根拠を持って「この条件だと別の結果になるのではないか」と予想を立てて独自のテーマが設定できれば最高です。

「対象範囲を絞る視点」を持つ

時と場合によって、対象範囲を絞っていくことも大切です。次の事例は、筆者の勤務校、秋田高等学校で筆者と理数科の生徒の間で実際に交わされた対話です。

【対象範囲を絞った実例】
筆者:どんなことに興味があるの?

生徒C:薬に興味があります。

生徒D:私は茶道部なのでお茶に興味があります。

筆者:お茶と薬ですか……。何か相性が悪そうだなぁ。

生徒C:お茶で薬を飲んじゃいけないって言いますもんね。

生徒D:薬の飲み合わせとか面白そうですね。検索すると、飲み合わせの禁止事項ってたくさんありますね。

筆者:しかも「薬」と一口に言っても膨大な種類の薬があるね。

生徒C:薬の飲み合わせの実験ってできますか?

筆者:ヒトや動物での実験は倫理的な問題がある。効果の測定もどうする? 採血しても成分が分析できないし、採血そのものも危険。唯一実験可能な薬は、細菌に作用する「抗生物質」だろうか。

 

ということで、細菌を実験対象とし、「『抗生物質』と『緑茶の成分物質』の組み合わせによって抗生物質の作用が変わるのか」という探究活動が始まり、現在でも本校生物部に引き継がれて進められています。

この生徒が膨大な種類の「薬」に注目し続けたように、大きな概念で捉えたまま「検証不可能」に陥ることはありがちです。しかし、「細菌のみに作用する抗生物質」のように、学校でも検証可能なものにピンポイントに焦点を絞ることでテーマとして成り立つようになります。生徒が対象とする興味の範囲が広いときは、ぜひこの視点を意識してサポートしてあげてください。

指導担当の教員は「無理をしないこと」

もう1つ、指導を担当する教員にとって、大切にしたいポイントがあります。それは、無理をしないということ。例えば、大学教員は各自に専門分野があり、学生はこれに沿って研究室を選びます。研究のプロである大学教員でも専門領域以外の研究指導は通常行いません。高校の教員にも同じことが言えるのではないでしょうか。筆者はもし専門外の分野について相談があったら、決して無理はせず次のように正直に対応すると思います。

【専門外の相談があったら?】
生徒E:〇〇山の森林の生態系についての調査というのはどうでしょうか。

教員:生態系と一口に言っても、具体的に何を調べる?

生徒E:どんな種類の樹木や草が生えているのか、どんな種類の動物がいるのかを調べます。

教員:どうやって?

生徒E:図鑑で調べれば……。

教員:うーん……すまない。自分も含めて科学的に正確な判断ができないと思う。
次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事