【前編】板橋区とスダチの騒動で炎上「不登校ビジネス」何が問題視されたのか 「わらにもすがる思い」孤立し不安に陥る保護者
ただ前述のとおり、同区は後日、不登校支援の方針は変わらないことを明確に述べており、この懸念については払拭される形となった。
生駒氏は、今回の一件で全国の自治体が外部との連携に対して萎縮しないことを願っている。
「すでに取り組んでいる自治体もありますが、不登校への対応としては、誰もが安心して通える学校づくりと共に、多様な学びの場や居場所の提供を同時に進めることが重要です。そのためにも官民の連携は今後も必要であり、自治体は民間事業者と連携するうえで、監査なども含め公正な基準を作るべきでしょう。また現状、制限付きの支援も少なくありません。例えば教育支援センターでは、小学生は送り迎えが必要だとか、自学自習ができない子は受け入れないなどのケースが多いです。そのため、支援の拡充に当たっては、当事者である子どもや保護者の声を反映してほしいと思います」
「自分に責任がある」と追いつめられる保護者
生駒氏たちのグループでは、公開質問状の起案・賛同団体の会員を対象に、不登校支援をうたう事業者から被害を受けたと感じた当事者の声を集めるアンケートも実施した。すると、さまざまな事業者に関する体験談が寄せられたという。
生駒氏たちが気になったのは、不登校の原因を親子関係に求める事業者がほかにも存在したことだ。
「不登校の子を持つ保護者の多くが『原因は自分にあるのでは』と自身を責めます。しかし文科省の通知にもあるように、不登校の要因・背景は多様であり、不登校はどの子どもにも起こり得ること。そんな中で親子関係に強く原因を求める論理は、『自分に責任があるのでは』と悩む親をさらに追い詰めます。また原因や責任が保護者のみに押しつけられることにより、社会や学校のあり方を問い直す動きが置き去りにされる恐れもあります」
また、サービス料金の幅は広いが、高額な設定の事業者も少なくない。
「数十万円の支払いを求められるケースも珍しくありません。しかも、高額なお金を投じてサービスを受けたものの、『子どもも私も不自然な関わり方やさまざまな禁止で疲弊し、子どもは壁に穴を開けるほど暴れたりもしました』など、子どもの状態や家族関係がかえって悪化したという声が少なからず届いています」
このほか、「支援内容は脅しや洗脳のように感じた」「サービス料を振り込むまでは親身に話を聞いてくれたが、支援が始まると提供メソッド以外の考え方は受け入れてもらえず疑問も言えなかった」といった支援内容への違和感も散見されたという。
また、契約前の説明の際に「夫と相談してから判断したい」と答えたところ、丁寧だった先方の態度が豹変し、「シングルマザーでも1人で決めることができている。そんなことではお子さんは、ずっと不登校のままですよ」と不安をあおられ、契約を急かされるような対応をされたという回答もあったそうだ。
「私は頼る相手を間違えていた」
小学生の子どもを育てる40代のA子さんも、不登校ビジネス事業者によるサービスを受けたところ、かえって親子関係が悪化した1人だ。
A子さんの子どもが登校を渋るようになったのは、夏休み明けのこと。やがて教室にいると身体面に不調が現れ、「もう学校には行きたくない」と強く訴えるようになり、間もなく完全に不登校となった。
「子どもを何とか再登校させたい」と焦ったA子さんは、不登校ビジネスの情報をスマホでかじりつくように検索。そんな中で彼女が選んだのは、Instagramの広告で知ったスダチだった。「再登校率90%」といった文言やたくさんの成功事例の発信を見て、「うちの子だって、何とかなるんじゃないか」と思ったのだ。