専門職チームと学校が連携して支援、「なごや子ども応援委員会」10年の手応え 全中学校に常勤のスクールカウンセラー配置
こうした専門職の活動を総括しているのが、主任HPだ。現在8人いる主任HPは1人当たり2〜3ブロックを担当し、各ブロックの管理や運営、ブロック間の連携調整、人材育成、さらに重大事案発生時の組織運営なども行っている。
「名古屋市のSCには、任期(5年)付きの常勤SCと非常勤SCのほか、定年制の職員であるHPがいます。HPの役割は、心理と福祉の両方の視点を持ち、総合的に子どもを支援すること。臨床心理士や公認心理師、社会福祉士などの資格保有者が試験を受けています。主任HPはこのHPから選ばれています」(平松氏)
SCやSSW、SS、SPは子ども応援課の管轄下にあるが、昨年度からSSWは、担当ブロックの区役所の福祉部門である民生子ども課一般職員も併任している。教育と福祉の連携を強化し、子どもを救う網の目を少しでも細かくしようと始めた体制だ。「実際、支援情報へのアクセスがしやすくなるなど、いっそうスピーディかつスムーズに支援できるようになりました」と、平松氏は手応えを感じている。
SC常勤化のメリット・デメリットとは?
チームでの支援は多職種の視点を入れた見立てができるということだが、具体的にどのような対応が可能になるのだろうか。SC出身の子ども応援課主任HPの山下陽平氏はこう説明してくれた。

教育委員会事務局新しい学校づくり推進部子ども応援課主任総合援助職
「登校しぶりがあった中学3年の生徒からSCに相談があったケースでは、チーム会議で検討する中で、受験に対する不安と家庭の経済問題が見えてきました。そこで、SSWは区役所と連携して経済面を含めた支援を行いつつ、SCと連携して生活困窮家庭の中学生が利用できる学習支援事業につなげました。また、SCは生徒の話を傾聴し、受験に対する不安に対応。しだいにこの生徒は登校が増え、進学先を決めて卒業しました。
また、SPは区内の学校を巡回して子どもの安全を見守るほか、警察と連携して地域の防犯情報を収集し、教員の生徒指導に役立ったというケースも。このように、応援委員会では多職種が役割を分担しながらチームとして包括的支援を行っています」
応援委員会が始まったきっかけは、2013年に名古屋市内で中学2年生の男子生徒がいじめ等を苦に自ら命を絶ったことにある。このことを機に、河村たかし市長と教育委員会がロサンゼルスに視察に行き、学校に常勤カウンセラーが配置されていたことなどを学んで立ち上げた。
立ち上げ当初、SCは非常勤だったが、5年かけて常勤SCを増やし、2019年に全中学校での常勤SCの配置を実現したという。常勤化のメリットとデメリットについて尋ねると、平松氏はこう答えた。
「メリットは日常的に子どもと関われることです。教員と一緒に毎朝、校門で挨拶していると、ささいな変化を察知できます。授業中や給食中の観察もでき、毎朝顔を合わせることで心の距離が縮まり、相談のハードルが下がるのです。また、常勤なので教員へのコンサルテーションもやりやすい。一般的にSCの常勤化は第三者性の確保がしづらいという指摘がありますが、本市では校長ではなく教育委員会の子ども応援課がSCに指示を出す組織体制なので、身分上も学校や先生と線引きできています」
SC常勤化のデメリットは、強いてあげるなら、財政負担だという。名古屋市では応援委員会の予算として年間約22億円を計上している。
「他都市から視察にいらした方々は、『うちもやりたいが財政的に難しい』という反応が多いですね。SCやSSW、SS、SPも、教職員の給与の一部を負担する義務教育費国庫負担制度のスキームに乗れば、ほかの自治体でもやりやすくなると考えており、ここは国にも要望しているところです」(平松氏)