鉄道車両を動かすシステムは見えない「小宇宙」だ 一部でもトラブルがあると全体が機能しない
それでは「システム」とは何か。『広辞苑第七版』には、「複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。」と記されている。
鉄道はまさにこれである。冒頭で筆者が「鉄道は列車ダイヤにしたがって陸上輸送を実現するシステムである」と述べたのは、このためである。
見えない舞台裏
ここまで読んだ方のなかには、「わかりにくい」「イメージしにくい」と感じる方もいるだろう。
それは当然のことである。なぜならば、鉄道を構成する要素の多くは、われわれ利用者の視点では見えないからだ。そもそも見えないものを想像することは難しい。
ここで、また機械式時計の話をしよう。われわれは基本的に機械式時計の文字盤と、その上を動く針しか見ていない。理由は単純で、文字盤の裏側が見えないからだ。たとえその裏側に「小宇宙」とも称される複雑かつ緻密なメカニズムがあり、数ある部品たちが見事に連携し合って動いていても、それに興味を示す人は少ない。
鉄道も同じだ。われわれは基本的に駅などの施設や、線路や踏切などの設備、線路を行き交う車両、そして駅員や運転士、車掌などの人しか見ていない。たとえその舞台裏で施設や設備、車両、人が見事に連携し、全体として自動車では実現できない陸上大量輸送を実現していたとしても、それに興味を示す人は少ない。
そこで筆者は、鉄道の舞台裏を取材することで、その全体像を把握しようとした。取材した対象は、新しい鉄道の建設現場から、電車などの車両や鉄道を支える機器を製造する現場、運転士や車掌の職場、そして車両や設備のメンテナンスの現場まで多岐にわたる。
筆者が「鉄道はシステム」という考え方を理解したのは、JR東日本の東京総合指令室を取材したときだった。東京総合指令室は、東京圏のJR在来線を管理する施設であり、1日約8000本の列車を動かし、約1400万人の旅客を運ぶ輸送の中枢として機能している。
この指令室に初めて入り、全体を見学して驚いた。これまで見た鉄道を支える職場や人のすべてが、見えない糸のようなものでつながり、歯車のように噛み合って動いているように感じたのだ。それは、「鉄道はシステム」という言葉の意味が腑に落ちた瞬間だった。
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