子の虐待や貧困が懸念される「離婚後共同親権制度」、学校現場への影響も甚大 進路選択や特別支援、不登校対応なども混乱か

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何より、この制度は過去20年以上にわたって築き上げてきたDVや虐待の被害者保護と安全のための諸制度(保護命令、避難者支援、被害者の住所秘匿等)を後退させる危険が大きい

DVや精神的虐待などの被害に遭いながら子を養育している者に最も必要なことは、その場から逃げることだ。しかし、逃げたことが「急迫」であったかどうか裁判所によって判断されるという現実は、ただでさえおびえている被害者の足をすくませてしまうだろう。法律上「急迫」の事情がなければお前は逃げられない、逃げたら誘拐犯だなどと、暴力をふるう配偶者に脅され、逃げられない心理状態に陥ることも考えられる。

さらに、証拠がないためにDV・虐待として認定されずに共同親権と決定された場合、加害者が被害者の居所や子どもの学校をつねに知ることができ、子に関係する重要な決定にも加害者が関与できる、という最悪のシナリオとなる。これまで確立した被害者保護は全面的に後退し、被害者は離婚後も加害者の支配から逃れられなくなる。

離婚に至る家族では多くの場合、力関係を背景とする加害・被害の関係がある。この法律が、子どもや被害者に深刻な悪影響を及ぼし、加害者に新たな「凶器」を与えるリスクは甚大だ。

「子どもの利益」と「子どもの意見」の尊重を

以上のような深刻な懸念をどう払拭できるのか。法律の運用に当たっては、両当事者の同意がないのに裁判所が共同親権を決定することがないよう徹底すべきであり、協議離婚でも共同親権を選択するリスクを周知徹底する必要がある。

共同親権を選択したことで発生する子どもの被害を防ぐため、「日常」「急迫」の要件をもっと広く認め、かつ明確なガイドラインを定めること、高葛藤事案では必ず監護権者を指定し、共同から単独への親権者変更を柔軟に認めることが求められる。

今後、共同親権導入によって、子どもの虐待が放置され、貧困が進めば、教育現場への影響は避けられない。日々刻々と成長する子どもに適時に適切な対応ができなければ、子の成長発達の権利は著しく阻害されるだろう。

改正法は、親権行使について、子どもの健全な成長発達を目的とし、子どもの利益のために行使しなければならないと定め (817条の12)ており 、この点は誰も否定できない。

学校現場の負担が大きいことは想像にかたくないが、子どもの利益と子どもの意見を何より尊重し、親権の濫用的行使に厳しく対応し、1人ひとりの子どもが両親の選択のゆえに制度の犠牲になることがないよう、明確な対応方針で臨んでいただきたい。

(注記のない写真:Ystudio/PIXTA)

執筆:伊藤和子
東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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