ラトビアとの国交開設交渉は簡単だった。懇意にするラヴレンツェ在モスクワ・ラトビア全権代表部次席代表に、日本政府の立場について率直に説明した。ラヴレンツェ氏はこう答えた。
「マサル、大丈夫よ。今、リガの外務本省は人員が入れ替えになって大混乱になっている。国際法がわかる人なんていないわ。日本が外交関係を樹立したいと言っているだけで大喜びする。リガには私から説明しておくから、マサルは淡々と準備を進めればいいわ。準備でリガに行くでしょう」
──来週行く予定だ。
「そのときまでに、国交再開ではなく国交開設ということで外務大臣の決裁が下りるようにしておくわ。マサルから『かつて日本はラトビアと外交関係を持っていたから筋からすれば国交再開なんだけれど、日本の立場に配慮してくれてありがとう』なんて、余計なことは言わないようにして」
──もちろん言わない。
「ところで今は結婚宮殿(ソ連時代には教会ではなく公的施設の結婚宮殿で、結婚式と婚姻登録がなされた)になっているリガの旧大日本帝国公使館の建物の所有権について、リガの外務本省も大統領府も強い関心を持っているわ」
第2次世界大戦前、リガの日本公使館は対ソ連情報収集の中心だった。大使館とは別に陸軍武官府もあり、当時の在留邦人は300人を超えていたという。戦後、結婚宮殿に改装された。
──どうしてそんなことに関心を持っているんだ。
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