震災で放映自粛、幻の九州新幹線CMの舞台裏 沿線ウエーブが呼び起こす感動

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本番を前にやるだけのことはやった。残るリスクは天候だけ。だが、2月20日の撮影本番当日、鹿児島は朝から土砂降りの雨だった。もちろん、雨天決行だ。

カンヌ国際広告祭で金賞!

10時55分、新幹線は雨中の鹿児島中央駅を出発。が、走っているうちに雨はやんだ。そして正親氏ら撮影スタッフが驚いたのは、沿線に詰めかけた人、人、人。赤ん坊をかついで走るお父さん。「結婚しました」というプラカードを掲げる新婚カップル。パトカーの前で敬礼する警官。事前の交渉で「忙しいから無理」と断られた会社の人たちも手を振ってくれた。予想をはるかに超える人出が沿線に押し寄せた。

もっとも、新幹線を走らせるJR九州にとっては、安全が最優先。「無事に終わらせる。頭の中はそれしかなった」(山元洋輔・営業部課長代理)。そんな中でも、1人でも多くの人たちの顔がはっきりと撮影できるよう、時速80kmからさらに速度を下げて走った。その分、トンネル内などで速度アップして挽回しないとダイヤに支障が出る。古宮部長は運転士に間断なく速度指示を飛ばし続けた。14時12分、無事5分遅れで博多に到着した。

このCMは世界でも評価された。6月に開催されたカンヌ国際広告祭で、アウトドア部門の金賞を受賞したのだ。「でも、唐池社長はフィルム部門で金賞を逃したのが悔しいようです」(古宮部長)。JR九州と電通は、これを超えるCMを作ることを目標に、さらに知恵を絞っている。

(週刊東洋経済2011年9月3日号)

 

週刊東洋経済編集部
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