首都圏の私立中受験者数減少、受験率上昇

西村創(にしむら・はじめ)
教育・受験指導専門家
早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wings、栄光ゼミナール、明光義塾などで25年以上の指導歴がある
(写真は本人提供)

首都圏では2010年代の後半から、私立中学受験者が増え続けていました。しかし、2024年入試では9年ぶりに受験者数減。首都圏の小学6年生の数が2023年に比べて約5000人減少したことが影響し、ついに受験者数が減少に転じたのです。その一方で受験率は15.3%に上昇。その結果、今年も例年に変わりなく、多くの受験生にとって厳しい入試となりました。

1都3県の公立小学校に在籍する2024年の新小学6年生は、現小学6年生よりも約1000人少なくなっています。しかしながら、東京都に限って言えば、新小学6年生は、現小学6年生より多く、全国的な少子化傾向とは異なります。今後も厳しい入試が続くことが予想されます。

【2024年入試で注目を集めた学校】

2023年に、最難関校である筑波大附属駒場が2024年入学者から通学区域の拡大を発表しました。これにより、これまで対象外だった千葉、埼玉、神奈川の一部の受験生が集まり、受験者が約5%増加しました。

2024年の新設校である埼玉県所沢市の開智所沢は、さいたま市岩槻区の開智と合同で入試が行われ、埼玉で10年連続で1万人以上もの受験者を集める栄東に次いで、受験者を集めた学校となりました。

近年、人気が上がっている東京都品川区の香蘭女学校は、2025年から立教大学への推薦枠が97名から160名になり、世田谷区の日本学園は2026年から明治大学系列校になって共学化されます。北区の順天は2026年に北里大学と法人合併、千代田区の三輪田学園は近隣の法政大学への推薦枠を最大30名設けることが発表されました。

また、千葉県市川市の国府台女子学院は、3つの女子大学と連携して、高校在学中に大学で学べる機会を作ったことにより、2024年の第1回入試では応募者が1000名を超え、前年比約25%増加となりました。

このように、最近は高校と大学の連携強化、いわゆる「高大連携」の動きが盛んになっています。この動きは今後ますます盛んになっていくことでしょう。

入試問題は大学入学共通テストの出題傾向とリンク

進学校である私立中は、大学入学共通テストに寄せた入試問題を出す傾向があり、その傾向はすでに定着しています。大学入試センターは問題作成の基本的な考え方として「思考力・判断力・表現力等」を問うことを公表しています。

具体的には、共通テストでは、身につけた知識を使って、長い文章に加えて示された資料、表、グラフ、地図、写真から必要な情報を読み取ったうえで、答えを記述する力などが求められます。進学校を中心とした私立中の入試問題もまた、このような大学入学共通テストの出題傾向にリンクしているのです。

2024年の私立中入試問題では、どの学校の入試問題でも極端な難問、これまで見たことのないまったく新しいタイプの問題はほとんど見られませんでした。難関校の入試であっても、基本的な定番問題の組み合わせや、典型的な解法のかけ合わせで解ける問題が目立ちました。

【2024年入試のユニーク問題実例】

一方、なかにはユニークな問題も見られ、2024年入試では次のような問題が話題になりました。

国語では攻玉社が加工前の写真と、加工後の複数枚の写真から、設問文の内容にあった写真を選択させる問題を出しました。

算数では、開成豊島岡女子駒場東邦などが、今年の西暦である「2024」という数字を題材にした問題を出しました。

理科では、が大谷翔平選手の活躍を題材にした打球の軌道の問題、女子学院がトマトの断面図を選ばせる問題や種の位置を書き込ませる問題などを出し、受験生の日頃の観察力を問いました。

社会では、筑波大附属駒場が、明治神宮外苑の再開発事業について「計画に反対する立場からの主張の根拠」を考えさせる問題を出し、SNS上でその問題の妥当性について物議を醸しました。また、多くの学校で「ジェンダー」「新紙幣」「物流2024年問題」「災害」などの時事問題が出され、日頃から社会で起きていることへの関心を問う学校側の姿勢がうかがえます。

中学受験を考えている保護者が知っておくべきこと

2025年入試では、例年2月2日に入試を行うミッション系の一部の学校の受験日が変更されます。すでに青山学院は2月2日から2月3日に入試日を移動することを発表しました。

さらに、新5年生が受ける2026年入試は、例年2月1日に入試を行うミッション系の一部の学校の受験日が2月2日に移動するという、いわゆる「サンデーショック」の年にあたります。入試日が変更されると、ミッション系以外の超難関校を第一志望校にする子にとっては、受験できる学校の選択肢が増えてチャンスになるのですが、ミッション系の難関校を目指して受験する子にとっては受験者が増えて不利に働きます。

このように、2025年入試、2026年入試は、例年と異なる受験動向になることは間違いありません。志望校の受験日がどうなるかは、事前に確認しておく必要があります。

一方で、日々の子どもへの学習サポートは、この数年で大きく変わることはありません。わが子の学力、特性にあった学習塾や学習環境を用意し、塾からの宿題は取捨選択してあげてください。塾の宿題をすべてやり切ることを優先するあまり、子どもの心身に負荷がかかりすぎては元も子もありません。

前述したとおり、昨今の入試は「思考力・判断力・表現力等」を問う問題が増えています。このような力は心身にある程度のゆとりがあってこそ、培われていくものです。

一見難問に思える問題でも、要素を分解すれば、基本問題の組み合わせにすぎません。基礎の理解を深めることが、応用問題・発展問題を解く力につながります。中学受験は「急がば回れ」です。目先のことにとらわれがちなわが子の中学受験サポートですが、ぜひ、今後の長い人生のなかで中学受験を通じて得たことが生きるように、見守っていただけたらと思います。

(注記のない写真:YsPhoto / PIXTA)