教育現場で広がるボードゲーム、「目的設定」せずに負けも失敗も楽しんで 「熟練者のみでの勝利」より満たされるものは

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現代の課題の解決策は、全員が優秀になることではない

実際に教育の場でボードゲームを取り入れるときには、大人はどんな姿勢でいるべきか。「消極的な子どもやルールを覚えるのが苦手な子どもがいる場合は、得意な子と『ペアを組んでやってみたら』と勧める手もあります。デイケアでも、この形ならと参加する人はよくいました」

こうした参加者はゲーム自体が嫌なのではなく、よく見れば「やりたそうにしている」ケースがほとんどだとのこと。正しくプレイできなかったらどうしよう、負けたらどうしようという自信のなさが二の足を踏ませているのだろう。

「また、もしルールの複雑さにハードルを感じるなら、会話することがメインのコミュニケーション系のゲームはおすすめです。先生や大人が介入するなら、何かのスキルを身に付けろと煽るのではなく、こうすれば『みんなが楽しめるよ』というスタイルであってほしい。例えば人狼ゲームで毎回特定の子どもが司会役をやらされてプレイを楽しめないなど、ゲームの前段階での力関係のようなものを取り除いてあげるのは大事ですね」

もう一つ重要なのは、負けても面白いゲームを選ぶことだと言う。

「コミュニケーションがメインのゲームは、勝敗以上に『会話で笑う』ことが目的になっているし、また初心者や能力の低い人が参加しても崩壊しないルールで作られた競争ゲームも結構あります。これを知ったときは『そんなことが可能なんだ!』と目から鱗でした。年齢が低い場合なども、敗者も楽しめるゲームを選ぶのは大切なポイントだと思います」

例えば與那覇氏自身は、「UNO」のような数字カードで競うゲームは苦手だそうだ。だが農場経営をテーマに駒や柵を配置するゲームは「箱庭を作るような感覚」があり、勝敗にかかわらず楽しんで終われると言う。また、会社経営をシミュレーションするゲームでは、プレイが終わった後の講評も楽しいと話す。

「どんな会社を作るかにプレイヤーの個性が表れるので、『確かに君は勝ったけど、その会社すごいブラックじゃん!』みたいに盛り上がることもできます。さらにゲームの中では倒産なども普通に経験します。ネガティブなことが『自然に』起きる体験に接していれば、現実の世界でも、マイナスな要素を寛容に受けとめやすくなる気がするんですよね」

メリトクラシーの中では成功者だけがフォーカスされて、「ネガティブなことが語られないカルチャー」ができていると語る與那覇氏。社会のさまざまな問題にどう向き合うかについても、ボードゲームでの経験が生きると考えている。

「メリトクラシーの社会が抱える課題の解決策は、全員が優秀になることではありません。大切なのは、バラバラな能力の人たちも包摂できる環境を作ることではないでしょうか。ボードゲームで『初心者や苦手な人もいたけど、一緒に盛り上がれた』ときの充足感はすごいものがある。熟練者のみでの勝利よりもずっと大きな満足感をもたらすはずです」

(文:鈴木絢子、注記のない写真:dodotone / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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