地震を機に忘れ去るべき「リスクオフの円買い」 「経常黒字」と「世界最大の対外純資産」の内実

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「国難で通貨安」はむしろ普通(写真・Bloomberg)

ドル/円相場は、能登半島地震発生から4日目となる1月5日時点で年末の1ドル=141円割れから146円付近へ約3.6%も上昇した後、144円前後で推移している。

これまでの円は、地震が起きても、津波が来ても、原子力発電所が事故を起こしても、またミサイルが近海に撃ち込まれても「リスクオフの円買い」「安全資産としての円買い」が発生してきた。象徴的には、貿易赤字が定着したことの影響はやはり大きいものだと思われる。

地震発生直後となる1月1日のブルームバーグでは『短期的に円高に振れる可能性』と題した報道が見られたが、それほどまでに「危ういことがあれば円高」という解釈が刷り込まれた市場参加者が多く、いまだそうした向きも残っている状況を知るという意味で非常に興味深いものがあった。

もはや円は2011年当時とは「別の通貨」

2011年3月11日の東日本大震災直後は「日本の損害保険会社が支払いに備えて外貨資産を崩す」という思惑が働き、実際に円相場は急伸した。円相場の構造変化をさほど気にせずに分析する立場を取っていれば、その記憶をそのまま今回に当てはめようとしてしまうのかもしれない。

しかし、2011年3月の対外証券投資を投資家部門別に確認すれば、同時期に損害保険会社が外貨建て資産を処分していた(統計上は対外証券投資を売り越ししていた)という事実はない。

それでも円高になったのは当時の日本がまだかろうじて貿易黒字国として余韻が残っており、東京外国為替市場において輸出企業のオーダー(実需の円買い)があったからではないかと思う。

もはや「実需の円買い」は現在に至っては見る影もない。需給環境という点に照らせば、2011年と2024年の円は「別の通貨」であり、「震災で円高」は歴史的事実としていったん忘れたほうがよい。

前回コラム「2024年の日本は「長い円安」の途中で息継ぎをする」では貿易統計を用いてその事実を紹介したが、今回は経常収支、そして、その蓄積である対外純資産残高に焦点を当て、なぜ「リスクオフの円買い」がなくなったのか、背景を簡単に説明したい。

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