注目の新制度「社会教育士」、探究学習や地域連携のニーズで学校の需要増 求められるのは「人と地域、情報をつなぐ人材」
目標は「あなたじゃなきゃだめだ」と言われないこと
社会教育士になりたい人が増えている一方で、称号は得たものの、何をしたらいいのかわからない人も多いそうだ。そうした人の参考になる話をしてほしいと、講師として招かれることもある木下氏。他県に赴く際には、その場に集まった地域の人同士がつながり、そこから何かが生まれるようなワークを行いたいと心がけている。
「本当は、地域の課題やニーズはその地域にいてこそつかまえられるもので、私が遠くから行ってアドバイスするようなことではないはず。社会教育士は講習を終えたからといってお金を稼げるようなものでもありません。自らの経験や得意分野を、地域の課題解決にどう活かすことができるか。一人ひとりが自分なりに考えることが重要だと思います」
社会教育士になることは、大学院に進むことと似ているかもしれない。受け身で何かを教えてもらうのではなく、自ら課題を設定し、研究計画書を用意して学ぶのが大学院だ。社会教育士も同様に、やりたいことを明確にしてこそ、講習での学びや個々の経験を活かせるものだといえそうだ。木下氏の場合はもちろん、「本と人をつなぎたい」というぶれない思いが軸になっている。同氏はこの日行ったまわしよみ新聞のワークショップを例に、気になる点を挙げた。
「今日のワークショップでは、大人が子どもの新聞を見て『スポーツ新聞の写真が多くてにぎやかだね。この発想はなかったな』なんて言っていましたし、大人が作った新聞を見て『見出しをつけるとかっこいい』と気づいた子どももいて、お互いに刺激を受けていました。異なる年齢の人が混ざって活動することには大きな価値がありますが、このとき大切なのは、大人が子どもを尊重すること。大人と子どもの混合グループを作ると、子どもの作業に手を出したり場を仕切ったりしてしまう大人もいます。そして残念ながら、社会教育の場でも同じようなことがある。自分の経験を生かすことに重きを置きすぎて、対象ではなく自分のほうを向いてしまっている人もいるのではないでしょうか」
そして木下氏は、視点を「持続性」に置いてほしいと続ける。
「地域と人をつなげるという意味では、自分がいなくなっても続けていける方法を考えて地域に根付かせてほしいのです。私自身、『木下さんじゃなきゃだめだ』と言われない仕組みづくりを目標にしています。新しい仕組みだからこそ、何でもやってみることができる。私ももっと勉強して、どんどん引き出しを増やしていきたいと思っています」
自身の経験から、木下氏は学校司書が社会教育士になることもとても有効だと感じている。人と情報を結ぶという役割をすでに担っており、「図書館」という公共性のある視点から、学校と外をつなげることもできるからだ。ほかにも、全国には多文化共生や防災などを軸にして活動する人もいる。動き出したばかりの制度だが、社会教育士自身が軸を定めて活動できれば、その可能性は大きい。
(文・撮影:鈴木絢子)
東洋経済education × ICT編集部
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