注目の新制度「社会教育士」、探究学習や地域連携のニーズで学校の需要増 求められるのは「人と地域、情報をつなぐ人材」
人や地域、情報をつなぐコーディネーターとして尽力を
取材当日、木下氏はさいたま市の書店で「まわしよみ新聞※」のワークショップを開催していた。対象となるのは地域の小中学生とその保護者。高校司書としてではなく、社会教育士「みちねこ」として地域に向けて行うイベントだ。
終了後に感想を聞くと、子どもたちは「新聞ってあんまり読んだことなかったけど、いろんなことが書いてあっておもしろかった」と答えた。新しいメディアと出合い、文字や文章に親しむこうしたワークを通じて、子どもたちの本の世界の入り口が開くことを期待している木下氏。この日も「新聞でおもしろいと思ったことを、本でもっと深く知ることもできます。こんな本もこんな本もあるからぜひ読んでみて」と、おすすめの書籍をいくつも紹介して、イベントを締めくくった。

司書が図書館で出会えるのは、意思を持ってそこを訪れる人だけだ。木下氏は図書館に来ない子どもたちにこそ本の魅力を伝えたいと考え、自ら地域に出ていける社会教育士になった。今、同氏の活動は多岐にわたる。子ども食堂やNPO法人との取り組みもその1つだ。
「おうちに本がないお子さんでも、子ども食堂に来たときに本があれば手に取ることもあるでしょう。それなら子ども食堂に本を継続的に入れていくことはできないかと思って」
そう考えて方策を探る中で、木下氏は埼玉県の子ども支援課の助成金の存在を知った。
「社会教育士なんですけど、と名乗ってさっそく県の担当課に電話しました」
称号のおかげでさまざまな問い合わせがしやすくなった、と木下氏はにっこりする。残念ながら助成金は本の寄付や購入には使えないとのことだったが、そこで同氏は「読み聞かせボランティア養成講座開催のためなら給付を受けることができる」というアドバイスを得た。該当する活動を行う知り合いの団体に連絡してみると、「その助成金のことは知らなかった。ありがとう、問い合わせてみる!」と喜ばれたという。
こうした情報のハブになることも、社会教育士の非常に大きな役割だ。発揮すべきは人や地域、情報をつなぐコーディネーターとしての力だ。木下氏は従来からこうしたことを心がけていたが、講習では改めてそのノウハウを学ぶことができ、気づきが多かったと振り返る。
「我流でやってきたプレゼンテーションやファシリテーションについてもきちんと知ることができて、その後の活動にとても役立っていると実感しています」
また、社会教育士になるための学びは、現役の教員にとってもためになると語る。
「講習では法律も勉強するのですが、これがとてもよかった。現場にいると、文科省からいろいろな通達が来て『なんでこんなことを?』と思うこともあると思います。でも法改正のタイミングなどをきちんと知ることで、求められる指導の根拠がわかって納得できる。それに今は探究学習でも、地域の特色や教育資源を生かすことがトレンドになっていますよね。指導する教員には地域とつながり、子どもたちと学校の外の大人をコーディネートするスキルも求められます。こうした背景もあって、社会教育士を目指す教員が増えているのだと思います」
※陸奥賢氏が考案したワークショップ。それぞれが興味を持った新聞記事を切り抜いてプレゼンし、トップ記事を決めて壁新聞を作るもの