いじめや不登校など深刻な二次障害も、DCD「発達性協調運動障害」の子の苦悩 体育は「どうしたら参加できるか」という視点を
しかし、年齢が上がるにつれて細かい協調運動が求められるようになるため、小学校に上がった頃からぎこちなさが目立ち、いろいろな問題が出てきます。例えば、給食の配膳ができない、トレイを水平に持つのが難しいといった子がいます。
教科学習では板書がうまくできない、実技科目でも道具がうまく使えず時間内に終われないといった事態が生じます。また、答えは合っているのに「字が汚い」と減点されたり、着替えが遅いことから生活態度の評価が下がったりすることも。
そうした様子がからかいやいじめの対象になったり、体育ではドッジボールやサッカーなどのチーム対抗で「お前のせいで負けた」と言われてしまったり、ということも多いですね。
このように、さまざまな二次障害が生じることも大きな問題です。自信や意欲をなくしてしまい、学習にも身が入りませんので、不登校になってしまうお子さんや、次のステップへの展望が持てなくなるお子さんもいます。成長して就職したものの、作業効率が悪いと低い評価を受けてつまずいてしまうケースも。また、大人になってからのスポーツや趣味などの余暇活動にも、DCDが影響することが指摘されています。
「道具の活用」やその子なりの「マイゴール」の設定を
──DCDのお子さんに対して、どのような支援や配慮が必要でしょうか。
例えば書字が苦手なら、授業が理解できていれば写真に撮ってノートに貼り付ける、提出物にパソコンを使うなど、本人に合った学び方を認めてあげてほしいと思います。定規やはさみ、エプロンなど、道具を使う授業では、苦手なことをカバーしやすい道具や便利グッズを選んであげてください。
また、自分のペースで繰り返し練習すると動作を習得しやすいのかもしれません。ある関西圏にお住まいのDCDの方は、財布から小銭を取り出すことは異常に時間がかかるけれど、小さい頃から日常的に食べているお好み焼きはひっくり返せるそうです。ちなみに私もDCDの傾向があって図画工作が苦手でしたが、ピアノを習っていたため音楽には苦手意識を持たずにすみました。
繰り返しの体験によって自分なりにマスターできたり心に余裕ができたりすることはあるようなので、例えば、家庭科で調理実習があるなら、事前に家庭で同じメニューを一緒に作ってあげると、取り組みやすくなるかもしれません。
――体育においてはどのような配慮が求められますか。
体育は高度な運動が求められるので、DCDの子にとってはとても苦しい時間です。DCDに限らず、発達障害の方は「体育が一番苦手」という方が多いようですね。ほかの教科と違って、「できる・できない」が可視化されやすく、競争する場面が多いためでしょう。今の学校の体育は、技術や体力の向上が重視され、それが難しい子どもたちがどうしたら健康でいられるか、どうしたら体育に参加できるかという視点が抜け落ちています。
以前、日本DCD学会で、サッカーが苦手なDCDのお子さんを対象にしたデモンストレーションが行われましたが、指導者が実際にお手本を見せながら、「ボールを持って走る」「ボールを足に乗せる」といったことからチャレンジしていました。
そんなふうに、例えば体育の跳び箱も「まずは跳び箱に手をつく」を目標にするなど、実現可能なところから始めて、その子なりの「マイゴール」を設定してあげることが重要だと思います。
DCDは「ほかの発達障害との併存」が多く見られる
──DCDのお子さんを持つ保護者の方にアドバイスをお願いします。
DCDと診断されれば、学校や先生に対し、発達障害の1つということで合理的配慮の申請がしやすくなります。しかし、残念ながら日本ではまだまだDCDの認知度が低く、診断できる医師も限られています。
現状としては、東京よりも関西のほうがDCDに精通した先生が多いなど地域差もあるので、まずは地域の保健センターや小児科、小児神経科などで「これはDCDの症状ではないか」と聞いてみて、DCDの診断ができる医師を探すこと。養護教諭やスクールカウンセラー、外部の公認心理師などに相談して探すのも一つの手です。