「指導死」8割は暴力なし、背景に「多忙」や「厳しい先生が重宝される構造」も 多いのは教科やいじめに関する「不適切な指導」
文科省は自殺対策として、1人1台端末を使ってSOSのサインを見逃さない体制づくりも進めているが、重要なのは大人の対応だという。
「私が調べた範囲では、いじめが原因で自殺や自殺未遂に至った子どもの約60%は学校アンケートの回答や口頭でSOSを出していました。自殺防止を目的に、端末でSOSを吸い上げることができても先生が動く仕組みがなければ変わりません。これは子どものSOSの出し方の問題ではなく、大人側の問題なのです」
では、指導死を防ぐにはどのようなことが必要なのだろうか。
「児童生徒が不登校や精神疾患となった段階で、外部の人間が調査に入ること。1人の指導死の前には、何人もの子どもが追い詰められているケースが多いです。例えば、ある小学校で起きた指導死の前には、教員の言動によって不登校になった子や転校した子が何人もいましたし、高校の女子剣道部員の指導死では、その前に2人の男子部員が自殺をほのめかしていました。その時点で第三者委員会が調査していたら指導死は防げたかもしれません。国はこうした体制整備を主導すべきです」
重要なのは指導中や指導後に「1人にさせないこと」
多くの教員は児童生徒を思って指導を行っているはずだが、日常的な指導と、指導死に至る指導は「紙一重」だと武田氏は言う。
「指導死の話をすると、先生から『指導をするなということですか?』と言われることがありますが、そうではなく、その子が明日から生き生きと希望を持って生きられる指導でなければ意味がないということをご理解いただきたいです。重要なのは指導の後。『明日からはこうすれば大丈夫』『君に期待しているから言うんだよ』といったフォローが一言あるだけでも違うと思います」
なぜなら、指導の当日や翌日の登校途中に亡くなるケースが非常に多いからだ。中には反省文を書かせている間など指導の最中や、指導直後に亡くなるケースもあるという。
「大人でも強く叱責されたらダメージを受けますが、子どもは経験値も少なく、『親にばれたら申し訳ない』『この場から逃げたい』と衝動的に死を選んでしまうことがあるのです。保護者にはケアのしようがなく、先生方が指導中や指導後に児童生徒を一人にさせないことが重要です。子どもが反省していたり、理不尽だと感じている様子だったりするならなおさら目を離さないでほしいと思います」
夏休み明けは児童生徒が精神的に追い詰められる時期として知られる。教員はどんなことに注意すべきだろうか。
「子どもが『おや?』と思うような言動をしたときは、頭ごなしに叱るのではなくて話を聞いてほしいですね。指導死の事案では、先生が子どもの言い分をきちんと聞いてないケースが目立ちます。子どもが思ったことを言える関係を日常的に築いてほしいです。普段から『言い訳するな!』といった指導をしていると、子どもは明らかに先生が間違っていると思っても声を上げることができません。また、積み重ねた信頼関係もたった一度の不適切な指導で壊れてしまうものだということも心に留めていただけたらと思います」
【相談窓口の情報はこちら】
・厚生労働省のウェブサイト「まもろうよこころ」
・都道府県・政令指定都市別の相談窓口「いのち支える相談窓口一覧」
(文:吉田渓、注記のない写真:keyphoto/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら