記事の目次
生徒指導提要とは
生徒指導提要の目的
生徒指導提要は2022年12月に改訂版を公表
生徒指導提要が改訂された背景
生徒指導提要改訂版のポイント
生徒指導提要におけるICTの活用
データを用いた生徒指導と学習指導との関連づけ
悩みや不安を抱える児童・生徒の早期発見・対応
不登校児童・生徒らへの支援
まとめ

生徒指導提要とは

生徒指導提要は2010年に小学校から高校までの教職員に向けて、「生徒指導の基本書」として作成されました。

内容は科目指導の基本書「学習指導要領」とは異なり、
・生活指導
・学校の組織づくりの方法
・地域との連携方法
・生徒の心理状態に関するの情報

などが体系的にまとめられています。

これらの内容は、生徒指導提要作成前までは地域性や教職員それぞれの感覚等に基づき、十分な対処が行えていない面もありました。

生徒指導提要によって教職員が共通の理解に基づき、生徒個人の人格や個性を尊重し、時代の変化に対応しながら適切な生徒指導を行える助けとなるよう作成されたのです。

参照:文部科学省「生徒指導提要 平成22年3月 まえがき

生徒指導提要の目的

生徒指導提要は、多様化する現代における子どもたちの課題や困難に対しての予防と対処を示し、彼らの可能性を最大限伸ばしていくことを目標としています。

そのためには「何よりも子どもたちの命を守ることが重要」です。改訂版では、すべての子どもたちにとって、学校が安心して楽しく通えることができ、魅力ある環境となるよう、学校関係者と家庭や専門機関、地域などの協力を得ながら、社会全体で子どもたちの成長・発達をサポートしていく方法を示しています。

第Ⅰ部では「生徒指導の基本的な進め方」として生徒指導の意義や生徒指導の構造、教育課程との関係、生徒指導を支える組織体制、ICTの活用などについて記載されています。

第Ⅱ部においては「個別の課題に対する生徒指導」として関連法規やいじめや不登校、自殺などセンシティブな内容の基本方針を示しながら、それらの未然防止や早期発見・対応にまつわる情報が記載されています。

参照:文部科学省「生徒指導提要令和4年12月 まえがき

生徒指導提要は2022年12月に改訂版を公表

2022年12月、現代に合わせた「課題の予防・早期対応」といった側面と「児童生徒の発達を支えるような生徒指導」の側面に注目し、その指導のあり方や考え方について示した生徒指導提要の改訂版が公表されました。

生徒指導提要が改訂された背景

改訂の背景には、近年のいじめの深刻化や児童生徒の自殺者数の増加傾向などにより、子どもを取り巻く環境の改善が求められていることが関わっています。

加えて、2022年6月に制定された「こども基本法」をはじめ、「いじめ防止対策推進法」や「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」などができたこともあり、2010年の生徒指導提要の作成時から生徒指導の環境は大きく変化しています。

こうした状況を踏まえ、生徒指導の基本的な考え方や取組の方向性等を改めて整理し、今日的な課題に対応していくため、12年ぶりの内容改訂となりました。

また、改訂版はデジタルテキストとして公開されており、併せて活用ガイドも掲載され、教職員が手軽に参照しやすくなっています。

参照:文部科学省「生徒指導提要(改訂版)利用ガイド

生徒指導提要改訂版のポイント

目を通してみると、平成22年度版に比べて具体的な状況が細かく設定されており、それぞれに「定義」と「予防」と「対処方法」等が示されています。教職員が迷いやすい問題に対して大きな助けとなりそうです。

【改訂の主な内容】
「積極的な生徒指導」の充実
児童生徒の問題行動等の発生を未然に防止するため、目前の問題に対応するといった課題解決的な指導だけではなく、「成長を促す指導」等の「積極的な生徒指導」を充実しています。
個別の重要課題を取り巻く関連法規等の変化の反映
個別課題(いじめ、不登校、児童虐待、自殺、多様な背景を持つ児童 生徒への対応等)について、平成22年の生徒指導提要作成時からの 社会環境の変化(法制度、児童生徒を取り巻く環境等)やそれらに応じた必要な対応等について反映しています。
新学習指導要領やチーム学校等の考え方の反映
生徒指導全般に係る事項として、児童生徒の発達の支援、チーム学校、 学校における働き方改革、多様な背景(障害や健康、家庭的背景等) を持つ児童生徒への生徒指導等について反映しています。

平成22年度版と令和4年度版の目次を見比べてみると、内容の違いがよくわかります。

【平成22年度版目次】
第1章 生徒指導の意義と原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第2章 教育課程と生徒指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
第3章 児童生徒の心理と児童生徒理解 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
第4章 学校における生徒指導体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
第5章 教育相談 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・98
第6章 生徒指導の進め方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135
第7章 生徒指導に関する法制度等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・204
第8章 学校と家庭・地域・関係機関との連携 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・221~240
【令和4年度版目次】
第1章 生徒指導の基礎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
第2章 生徒指導と教育課程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
第3章 チーム学校による生徒指導体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
第4章 いじめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120
第5章 暴力行為 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141
第6章 少年非行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153
第7章 児童虐待 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・171
第8章 自殺 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・189
第9章 中途退学 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・209
第10章 不登校 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・221
第11章 インターネット・携帯電話に関わる問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・240
第12章 性に関する課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・255
第13章 多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・268~289

全体的なボリュームに大きな差はありませんが、「いじめ」「児童虐待」「多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導」など現代の具体的な課題が取り上げられていることがわかります。

さらに、生徒指導提要そのものがデジタル利用できるように、ICTの活用についても指針を示しているという特徴もあります。

生徒指導提要におけるICTの活用

改訂版の第1章「生徒指導の基礎〉第1章5項2には「ICTの活用として令和の日本型学校教育の実現に向けては、GIGAスクール構想を踏まえ、今後ICT を活用した生徒指導を推進することが大切です」と示されています。

ICTを活用することで、以下のような教育効果が期待されています。

(1) データを用いた生徒指導と学習指導との関連づけ
(2) 悩みや不安を抱える児童生徒の早期発見・対応
(3) 不登校児童生徒らへの支援

また、「校務系データ(出欠情報、健康診断情報、保健室利用情報、テスト結果、成績情報等)」「学習系データ(学習記録データ、児童生徒アンケートデータ等)」などを組み合わせることで、客観的なデータを用いて一人ひとりの児童生徒や学級・ホームルームの状況を分析・検討することも期待されています。

参照:文部科学省「生徒指導提要令和4年12月 第1章5項2

データを用いた生徒指導と学習指導との関連づけ

ICTを活用することで、学習指導と生徒指導の相互作用をデータから分析・検討することが求められています。

多くの教職員が経験で感じているように、学習指導と生徒指導は密接な関係にあります。児童生徒の孤独感や閉塞感の背景には「勉強がわからない、授業がつまらない」など、学習上のつまずきや悩みがある場合が少なくありません。

わかりやすい授業、誰にでも出番のある全員参加の授業が、児童生徒の孤独感や閉塞感の解消にもつながり、ひいては自己肯定感や自己有用感を高めるとされています。

改訂版の第2章2項2には、データの収集方法として以下の内容が提案されています。

①授業観察からの主観的情報の収集
授業者である教員の主観的な情報を、学級・ホームルームの学習の雰囲気や気になる児童生徒の言動などを、担当教員個人だけでなく、同僚教員や管理職に授業観察をしてもらい収集します。

② 課題・テスト・各種調査・生活日誌等からの客観的情報の収集
授業での課題、大小テスト、生活実態調査、いじめアンケート調査、進路希望調査、生活日誌などの客観的な情報を収集します。

③ 出欠・遅刻・早退、保健室の利用などの客観的情報の収集
保健室の利用実態に関する情報はとくに、生徒指導上の諸課題や、心身の健康や家庭生活の状態と関連します。

④ ICT を活用した客観的情報の収集
GIGAスクール構想の下で整備された、児童生徒1人1台の ICT 端末等も活用し、児童生徒一人ひとりの客観的な情報を抽出して、整理しておきます。

まとめると、教職員が感じたこと、児童・生徒自身の学習状況やアンケート、出欠や保健室利用等の心身に関することなどをICT端末で情報収集して活用。個人の教職員だけでなく他の教職員と連携してチームによる分析と共通理解を活かした授業や生徒指導を行うということです。

それにより、教科の指導と児童・生徒指導を一体化させることができるため、児童・生徒自身が学校やクラスの一員であることを実感しやすく、安全・安心に通学できる環境をつくることにつながるとされています。

ICTを活用すれば教職員間の情報共有がスムーズになります。ゆえに、教職員のICT活用力向上が求められています。

悩みや不安を抱える児童・生徒の早期発見・対応

悩みや不安を抱える児童生徒の早期発見・対応にもICTを活用することができます。

ただし、ICTにより得られる情報はあくまで児童生徒の一部の情報であり、把握した状況から適切に対応する体制を構築しておくことが求められています。

改訂版の第8章4項3にはICTを利活用した自殺予防体制として、SNSをコミュニケーションツールとする児童生徒が増加しているため、危機を発信するためのチャンネルの1つとして、学校の内外にSNSなどを活用した相談体制を構築することも重要としています。

この点は文科省における「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」の審議のまとめでも指摘されています。

さまざまな悩みや不安を抱えた児童生徒に対して、多様な相談の選択肢を用意することは、問題の深刻化を防ぐことに有効です。

最終的には人による直接的な支援につなげることができる体制や、SNSの持つ危険性にも考慮しながら(第11章インターネット・携帯電話に関わる問題)、SNSなどを活用した相談体制のいっそうの充実を図ることが求められています。

こうしてICTを活用した児童生徒の見守りを行うことで、児童生徒の心身の状態の変化に気づきやすくなる、あるいは児童生徒の理解の幅の広がりにつながることも期待されます。

不登校児童・生徒らへの支援

ICTを活用した不登校児童生徒等への支援は、法規的にも必要性が示されています。

「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」には、「不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること」(第3条第2号)という基本理念が示されており、それを実現する方法の1つがICTの活用であるとされています。

また、病気療養中の児童生徒については、「小・中学校等における病気療養児に対する同時双方向型授業配信を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について(通知)」「高等学校等におけるメディアを利用して行う授業に係る留意事項について(通知)」等を参考にし、ICTを活用した通信教育やオンライン教材などを活用するなど、教育機会の確保に努める必要があります。

こうした背景の中、改訂版の第10章3項4(7)では近年、とくに大きく進んだICTを活用した通信教育やオンライン教材に注目しています。

GIGAスクール構想の進展により、今後、学校に登校できない児童生徒に対してオンラインによる教育機会が増えていくと予想しています。

そのためにも、オンラインによる学習を学校内でも共有し、一定のルールの下、出席扱いとすることや、不登校特例校の指定を受けて単位認定につなげられるような取り組みが求められています(学校教育法施行規則第 86条)。

出席扱いの指針として、小中学生については以下のように示されています。

①保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれている
②ICTや郵送、FAX等を活用して提供される学習活動である
③訪問等による対面指導が適切に行われている
④児童生徒の学習の理解の程度を踏まえた計画的なプログラムである
⑤校長は、対面指導や学習活動の状況等を十分に把握する
⑥基本的に当該児童 生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けられないような場合に行う学習活動である
⑦学習成果を評価に反映する場合には、学習内容等がその学校の教育課程に照らし適切であると判断できる

まとめ

今回の学習指導提要の改訂では、多様な社会で最適な学びを実現できるICTの推進とともに、現代の課題(いじめ、非行や虐待、自殺、不登校、性関連等)の予防と早期発見、対処法などが示されています。

子どもたちの中には、学校や家庭で問題を抱えていても誰にも相談できない、相談する術を知らないというケースも見られます。普段の様子だけで、子どもの実状まで把握するのは難しいものです。

だからこそ、大人が社会の仕組みを理解し、適切な助けを差し伸べるための準備をしておくことが大切なのではないでしょうか。

今回の改訂版は、教職員のみならず、子どもに関わるすべての人が目を通す価値があるといえるでしょう。

オオスミ フリーランス家庭教師 / 受験コンサルタント / キャリアコンサルタント / 先生・保護者の相談員

明治大学卒、右股義足のユーザー。200人以上の理系同期の中で唯一大手アパレル会社に就職。顧客数No1を獲得しながらお客様から自分の世間の狭さを学び、20代は旅をする様に社会を学び回る。教育業に出会い、塾時代を含め900組以上のご家庭を個別にサポートする。知見と人生経験を活かし、科目の受験対策と共に、生きる力・学ぶ力を育てる授業と、キャリアコンサルタントとして学生から就職転職まで踏まえて人生をデザインする進路相談などを生徒・保護者・先生方・社会人に提供している。