メタ認知とは?
メタ認知とは、わかりやすく言えば、「自分の思考や行動を客観的に把握し認識する力」。1970年代に、アメリカの発達心理学者のジョン・H・フレイヴェルが提唱し、その後アン・L・ブラウンが「メタ」についての研究を行い世界に広まるようになりました。
「メタ」はギリシア語に由来する接頭語で、「高次の」「より上位の」などという意味を表します。
読む、見る、聞く、書く、話す、覚える、考える、理解するなど頭を働かせること全般を「認知」と呼びますが、メタ認知は、この認知をより上位の観点からとらえたもの。
自分が頭の中で「きっと、こうだよね」と考える中で、自分の中の“もう一人の自分”が「本当にそれでいいの? ほかの考え方はできないの?」などと、冷静で客観的な判断をしてくれている、というイメージです。
メタ認知の能力
メタ認知の能力は、
2.メタ認知的活動
の2つに分けられます。
1.メタ認知的知識
1の「メタ認知的知識」は、さらに「人間の認知特性についての知識」「課題についての知識」「課題解決の方略についての知識」の3つに分類されます。それぞれについて説明します。
・人間の認知特性についての知識
「一度に多くを求められてもこなせない」「疲れがたまると思考力が低下する」など、私たち人間の一般的な認知の特性についての知識です。「暗記が得意」「早とちりをする癖がある」など、その人自身の認知特性も含まれます。
・課題についての知識
「長時間単純作業を続けるとミスが出やすい」など、課題の性質についての知識を指します。課題が何を要求しているのか、課題の本質は何かを知っていれば、課題に対して適切に対応することが可能になります。
・課題解決の方略についての知識
「図解で表現したほうが課題設定しやすい」など、課題をよりよく遂行するための工夫についての知識を指します。この知識を豊富に持つことで、課題遂行のレベルを上げることができます。
2.メタ認知的活動
2の「メタ認知的活動」は、「メタ認知的モニタリング」と「メタ認知的コントロール」に分けられます。それぞれについて説明します。
・メタ認知的モニタリング
「ここがよくわからない」「この考え方でよいのだろうか」など、自分の認知行動を自分で点検すること。
・メタ認知コントロール
「この例ではわかりにくいから、ほかの例を考えてみよう」など、自分の認知行動を制御し、前述したモニタリングで得た知識から目標や計画を立てたり、それらを修正したりすること。
「メタ認知的活動」は「メタ認知的知識」に基づいて行われ、メタ認知的活動を活発に行うことにより、認知活動の質は高まっていきます。
メタ認知が高い人の特徴
メタ認知能力が高い人ほど自分の特性や考え方のクセを把握できるため、目標達成能力や課題解決能力が高いといわれています。メタ認知能力が高い人には、どのような特徴があるのでしょうか。
・感情の軌道修正ができる
物事に対して不安な気持ちになっても「不安を軽減するために、今、何ができるかを考えよう」など感情の軌道修正ができ、トラブルが起こった場合も冷静に対応することができます。
・自分に適した目標を設定し、高い意欲で取り組むことができる
自分が主体となって自分に適した目標を設定し、「目標に向かって学習を積み重ねていけば、⚪⚪⚪になる」など有効な方法で動機づけを行い、意欲的に取り組むことができます。
・ 周りの人たちとコミュニケーションを取りながら発想を活性化できる
自分と周りの人たちとの考えの違いに気づくことができ、円滑にコミュニケーションを取りながら知的な刺激を受け、発想を活性化することができます。
一方で、メタ認知能力を高めすぎることで、
・ 相手の気持ちを考慮することで流暢に話せなくなり、返答が遅くなってしまう。
・ 周りの空気を読みすぎて自分のアイデアや主張を押し通せなくなってしまう。
などというケースもあります。
メタ認知が低い人の特徴
メタ認知能力が低い人は、物事を客観的に捉える力に乏しく自分の感情に左右されてしまいがち。
気持ちが落ち込んでいたり、心配なことがあったりすると、それらのことばかりを考えてしまい、一面的な判断になってしまったり、思考の柔軟性が低下しやすくなります。「どうせうまくいかないだろう」などと決めつけ、行動力に欠けるといった特徴も見られます。
メタ認知のトレーニング方法
メタ認知能力を鍛えるためには、日頃から「自分は何をしていて、何を考えているのか」と、自分の行動や思考をモニタリングすることに加え、最初の考えに固執せず別の考え方を模索する習慣をつけることが大切です。
つねに1人で考えるよりも、他者とのやり取りにより脳の働きを活性化することができます。必要に応じて他者の意見を聞き、個人思考と協働思考をバランスよく使い分けたいものです。
また、何かを学習する場合は、
・学習スペースを片付けるなど“環境”を整える
・「覚えたいものを書いた紙を目につく場所に貼る」など、学びを生活に埋め込む
などにより、メタ認知を活用して効率的に学ぶことができます。
メタ認知と教育
メタ認知は「新学習指導要領」でも重要視されており、教育現場でもメタ認知を活用した授業が求められています。
・子どもが最初に自分で考え抜いてから、多様な考えに触れる機会を意識して設ける
・討論の場を通じて、「なぜこの意見に賛成なのか」「なぜこの意見に反対なのか」といった根拠まで考えさせる
・何かに失敗したら、「どこに問題があるか」「どう改善したらよいか」を子どもたちに考えてもらう
などの方法を取り入れ、子どもたちの学力や学習意欲を高めていきたいものです。
メタ認知と仕事
メタ認知能力は、仕事におけるさまざまな場面においても生かすことができます。
自分の現状を振り返り、どこを改善すればよいか理解し、それに向かって踏み出せるようになることで、職場でのコミュニケーションが円滑に進み、高いレベルでのプロジェクトの遂行につながることが多いようです。
メタ認知の診断
メタ認知の診断は、メタ認知を測る診断テストを受けることで可能になります。
2004年に英国のマンチェスター大学が作成した5項目全30問のメタ認知診断テスト「MCQ-30」が知られていますが、ほかにもさまざまな機関が同様の診断テストを開発し、メタ認知の研究を行っています。
まとめ
不確実性の高い「VUCAの時代」の今だからこそ、私たち一人ひとりがメタ認知をうまく使い、自分を伸ばしながら社会全体を幸せにしていく力が求められています。学校教育においても、メタ認知を活用し、子どもたちへの問いかけや授業での取り組みを工夫することで、学力や学習意欲を高めていくことができるといえるでしょう。
『メタ認知 あなたの頭はもっとよくなる』(三宮真智子著:中公新書ラクレ)
『メタ認知 学習力を支える高次認知機能』(三宮真智子著:北大路書房)
「文部科学省 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」
明治大学卒業後、出版社、制作会社勤務を経てフリーに。教育、子育て、PTAなどの分野で取材、執筆、企画、編集を行う。教育分野では、ICT教育、教職員の働き方、授業実践事例や学校づくり等をテーマに取材。著書に『PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本』『卒対を楽しくラクに乗り切る本』(共に厚有出版)、執筆協力に『学校ってなんだろう』(学事出版)などがある。