記事の目次
ギフテッドとは
ギフテッド教育とは?
ギフテッド教育のメリット・デメリット
ギフテッド教育で注意したいこと
海外におけるギフテッド教育
日本におけるギフテッド教育
その他、ギフテッド教育の事例
まとめ

ギフテッドとは

ギフテッドとは、一般的に、生まれつき特定の分野での特別な才能や高い能力を持っている(=Gifted/ギフトを授かった)子どものことを指します。

ギフテッドを測る基準として、アメリカでは、国際的な知能検査である「WISC-IV」で「IQが130以上」という値が用いられることがありますが、IQだけでではなく、「芸術的能力、創造性、言語能力、リーダーシップなどさまざまな領域の特定分野において突出した才能をもつ子ども」と認識されています。

日本でも2021年7月、文部科学省が「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」(以下、有識者会議)を立ち上げました。22年9月には、特異な才能のある児童生徒への指導・支援に関する取り組みの基本的な考え方や、有識者会議として想定する学校教育のあるべき姿、その実現のために取り組むべき施策を総括した「審議のまとめ」を公表しています。

ギフテッドの中には、2E(Twice-Exceptional)と呼ばれる、ギフテッドであり、自閉症スペクトラムやADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)などの発達障害を併せ持つ子どももいるといわれています。日本では、ギフテッドというと障害のある子と誤解をする人もいることから、有識者会議では「ギフテッド」ではなく「特異な才能のある児童生徒」を使用しています。

ギフテッド教育とは?

ギフテッド教育とは、ギフテッドと呼ばれる子どもたちを対象に、それぞれの能力やペースに合わせて行われる教育を指します。

日本の多くの公立学校で行われているような通常の授業とは異なり、一人ひとりの学習ペースを見ながら学習内容や教材を変えていきます。

アメリカは1800年代からギフテッド教育に取り組み、現在も、アメリカ全土でさまざまな教育プログラムが行われています。アメリカの事例を参考に、ヨーロッパやアジアでもギフテッド教育を取り入れる国が増えてきています。

ギフテッド教育のメリット・デメリット

ギフテッド教育のメリット・デメリット・問題点を紹介します。

ギフテッド教育のメリット

ギフテッドについての理解がある指導者の下で、メンタル面やソーシャル面などのサポートを受けながら特別な授業プログラムを受けることで、個々の才能や高い能力を伸ばすことができます。

ギフテッド教育のデメリット

周りの子どもとは異なる環境で特別な教育を受けることにより、同年代の友達ができにくく、コミュニケーション能力が育ちにくい面もあると考えられています。

ギフテッド教育の問題点

日本においては、ギフテッドの認知が進んでおらず、ギフテッド教育に取り組む教育機関や団体が少ないのが現状です。

保護者が子どもの様子を見て「わが子の学びを深めるには特別なサポートが必要なのかもしれない」と思っても、どの機関にどのように相談したらよいかなど、満足な情報を得ることが難しい状態といえます。

社会システムをフレキシブルにしない限り「ギフテッド」は育たない訳

ギフテッド教育で注意したいこと

ギフテッド教育は、「答えを追い求める学び」や「評価を得る学び」でなく、その子自身が興味を抱いたことを自由に掘り下げる「目的なき学び」であることが大前提です。

その子の取り組みを点数化したりなど“評価”するのではなく、「こうあるべき」「こうあらねば」といった発想を取り払い、自由な発想の中でいろいろな事象を考えていくことを教育プログラムの中に組み込んでいくことが必要であり、このような学びの中からイノベーションが生まれていくと考えられています。

海外におけるギフテッド教育

「ギフテッド教育先進国」ともいわれているアメリカで導入されている代表的な教育内容を4つ紹介します。

・ プルアウト方式
一定の時間をギフテッドの子どもたちが集まる学校あるいは学級で過ごし、残りの時間は通常のクラスで学びます。ギフテッドの子どもたちが集まる学校あるいは学級での過ごし方は、複雑で困難な課題に取り組んだり、個人の興味に合う授業を受けたりなど学区や学校により異なります。

・ エンリッチメント方式
ギフテッドの子どもも一般の子どもたちと過ごしますが、難易度の高い課題を出されたり、スペル大会、サイエンスフェアなど各種コンテストへの参加を促されたりなど、本人の才能を伸ばす機会を与えられます。

・ アクセルレイト方式
いわゆる「飛び級」「飛び入学」です。年齢ではなく、本人の能力により、早期にキンダーガーデンに入学したり、1学年飛び越して上の学年や学校に入ることができる制度があります。

・ サマースクール方式
夏休みに、ギフテッドの子どもたちを対象にしたキャンプや集中講義が全米各地で開催されます。中でも、ジョンズホプキンス大学で1979年につくられた学習プログラム「Center for Talented Youth(CTY)」は高い知名度を持ちます。

ただ、現在は米国でも公立校ではギフテッドとラベル付けするのをやめ、advanced learner(アドバンストラーナー、卓越した学習者)という呼び方に変える動きが出ています。才能の定義や識別の基準、またそのプログラムの規模により対象者に偏りが出てしまう、社会的経済格差の影響を受ける、それにより潜在的な才能が見いだされなくなってしまう可能性があるからです。

世界的な潮流としては、才能のある子も、障害のある子も、通常学級でインクルージョンの方針で教育していこうという方向性にあります。

日本におけるギフテッド教育

これまで日本であまりなじみがなかったギフテッド教育ですが、近年、多様な才能を見直し伸ばそうと、さまざまな取り組みが行われ始めています。

東京都渋谷区では東京大学先端科学技術研究センター・人間支援工学分野に委託し、子どもたちそれぞれにあった学びの方法や環境を提案する「渋谷区ラーニング・リソースセンター」で、東京大学先端科学技術研究センターと連携した特別なプログラムを2017年9月から行っています(渋谷区の公立小学校4年生から公立中学校3年生の児童生徒対象)。

また、東京都中野区に本校、長野県長野市に系列校がある「翔和学園」では、2Eの子どもたちを対象とした「ギフテッド2Eクラス」を設置。アメリカで実績のあるギフテッド教育のメソッドを導入し、「人間の生きていく気力を育てる」を理念とする特別支援教育が行われています。

渋谷区ラーニング・リソースセンター
<2023年度日本における「ギフテッド」関連について>
ギフテッドではなく「特異な才能のある子」、個別最適な学びの中で支援へ
文科省23年度予算案で8000万円を計上したワケ

その他、ギフテッド教育の事例

自治体・学校以外で、ギフテッドとよばれる子どもたちをサポートする取り組みを行う団体を紹介します。

NPO法人TEAM GIFTED
ギフテッドの子どもたちに対して学習支援を行うだけでなく、進学や自立などそれぞれの子どもたちに合わせた支援を行っています。

孫正義育英財団
高い志とずば抜けた才能を持つ若者に自らの才能を開花できる環境を提供し、人類の未来に貢献する人材の支援を目標に、ずば抜けた才能を持つ若者の進学や留学の費用などを支援しています。

LEARN
東京大学先端科学技術研究センターで運営。教科書を離れて学びの楽しさに気づくプログラム、学校教育に飽き足らない子どものためのプログラムなど、子どもたちがそれぞれ個性を発揮できるよう多様な学びの場を提供しています。

日本ギフティッド協会
ギフテッド教育に関わってきた日米のスタッフが運営。日本でギフテッドに関する概念を理解・浸透させることや、ギフテッドの子どもを持つ保護者の負担を減らすことなどを目的に、ギフテッドの子どもたちに関する教育計画書「GIEP」を作成しています。

一般社団法人Education Beyond
ISAKジャパン代表理事の小林りん氏らが設立。前述した米国のギフテッド教育の1つであるCTYの学習プログラムを2023年夏から日本で展開するべく準備を進めています。

一般社団法人ギフテッド応援隊
ギフテッドの子どもを持つ保護者のコミュニティ。2017年の設立以来、会員相互の交流や情報発信、専門家による講演会などを行っています。

まとめ

22年9月、「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」から、文部科学省への提言が行われ、①特異な才能のある児童生徒の理解のための周知・研修の促進、②多様な学習の場の充実等、③特性等を把握する際のサポート、④学校外の機関にアクセスできるようにするための情報集約・提供、⑤実証研究を通じた実践事例の蓄積以上5つの施策が示されました。

これを受け、文部科学省は、2023年度から、特異な才能のある子どもへの支援に乗り出します。まだ発展段階にある日本のギフテッド教育ですが、さらなる整備・拡充が期待されています。

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《参考資料》
文部科学省:特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する指導
特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議審議のまとめ~多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として~

 

長島ともこ フリーライター、エディター

明治大学卒業後、出版社、制作会社勤務を経てフリーに。教育、子育て、PTAなどの分野で取材、執筆、企画、編集を行う。教育分野では、ICT教育、教職員の働き方、授業実践事例や学校づくり等をテーマに取材。著書に「PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本」「卒対を楽しくラクに乗り切る本」(共に厚有出版)、執筆協力に「学校ってなんだろう」(学事出版)などがある。