教材作成に必要なこととは
大前提として、教材自体はあくまでも教育効果を高めるため、学習活動を達成するためのツールでしかありません。ですので、教材作りのスタートは学習指導要領等を踏まえ、各教科・領域の中で達成すべき目標を理解することからです。
教科学習などにおいては、授業する内容の教科書ガイド(指導書・参考書)を最初に確認するのがよいでしょう。そして、教科書ガイドと併せて学習指導要領の解説書なども見ることで、「基礎的・基本的な知識・技能」だけではなく、「思考力・判断力・表現力等」や「主体的に学習に取り組む態度」の学力の三要素についても、理解を深めて授業を実施することが可能になります。
教科書がない総合的な学習の時間やそのほかの「〇〇教育」といったものに関しては、文部科学省公式サイトや各自治体からのリーフレットで確認することをお勧めします。
こちらでは、教師向けの参考資料としての指導資料や学習評価についてまとめられています。
小学校の教材作成について
小学校の教材作成において、とくに留意すべきなのは「表現方法」です。
入学したての小学1年生と中学校目前の小学6年生では、言語スキル自体に大きな差があります。当然のことながら、これは学年だけではなく発達段階やバックグラウンドにも関係してくるものです。ですので、授業ユニバーサルデザインで意識されているような視覚化や構造化を図るなどして、誰もがわかりやすい・参加しやすいような学習環境をつくる必要があります。
学力の三要素(「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習 に取り組む態度」の3観点)についても、理解を深めて授業を実施することが可能になります。
中学校の教材作成について
中学校の教材作成において、とくに留意すべきなのは「指導と評価」の一体化です。
これに関しては小学校と同様ですが、教材となるワークシート自体が評価物そのものであったり、定期テストにおける重要なアイテムにもなったりすることがあります。ですので、教材作成の意図を明確に持ち、授業時における「何のため」の教材なのかを教員がよく理解していることが重要です。
指導・支援するためのツールとしての教材ですから、評価にも大きな影響力があるような教材が望ましいのではないでしょうか。
高等学校の教材作成について
高等学校の教材作成については、これまでの小学校や中学校と異なり、主体的に学びに向かえるような教材がいいでしょう。基本的な知識や勉強内容はネット検索すれば、出てくることが多く(いわゆるググれば出てくるという意味)、そのほか付随するような内容に関しても、検索結果として表示されるでしょう。
そうなると、これまでのような「暗記」のためのワークシートでは意味がなく、学習の学びを広げる・深める「きっかけ」となるような、優れた教材である必要があるでしょう。
そのためにはやはり、単元の目標に沿った教材選定・教材研究が重要となってきます。生徒の実情に合った(少しチャレンジするとポジティブな結果が出そうなもの)教材の取捨選択ができるのは、プロフェッショナルな先生だからこそです。
主体的に学びに向かえるような教材という意味では、同時共同編集ができるようなクラウド型の教材も効果的です。GIGAスクール構想が進み、小中学校で経験してきている生徒たちが高等学校の生徒となっていますので、学習内容によって紙ベースのワークシートとデジタル教材としてのワークシートの併用は必須だと思われます。
効果的な学習教材の選定・開発ついては、「人権教育の指導方法等の在り方について」(文部科学省)に以下のように記されています。
この点で、保護者をはじめ地域の人々の生き方・考え方や歴史等豊かな地域教材を開発・活用することが重要である。
また、学習教材の選定・開発に際しては、児童生徒の発達段階を十分考慮するとともに、その内容を公正な観点から吟味する。さらに、例えば身近な事柄を取り上げる場合など教材の内容によっては、プライバシーの保護等にも十分配慮することが重要である。
これらのことについては、人権教育に限ったことではなく、他教科・領域などを含め、いずれの教育活動において普遍的でもあるといえます。
とくに特定の教科書がない総合的な学習の時間や特別活動などにおいての教材選定・開発に際しては、ここで示されている視点を十分に踏まえることが重要であると思われます。
プリント教材の作成
紙ベースの教材としての代表格ともいえるのが「プリント教材」ではないでしょうか。一般的に、業者・事業者から購入するドリル教材(書籍)とは異なり、教材や学習内容に合わせて、授業者が印刷し児童生徒に配布する形が取られます。
プリント教材の自作は、大きく以下の3パターンに分かれます。
Ⅰ 完全に自作(著作権は作成者である教員)
Ⅱ 書籍の市販プリント教材を複製(複製可能な書籍)
Ⅲ ダウンロード型の市販プリント(無償・有償)
教育効果を高めるためという軸がぶれないようにしつつ、多忙な業務時間の中で作成していくことを考えると、Ⅲのダウンロード型の市販プリント(無償・有償)を選択することは今後のトレンドになっていくのではないでしょうか。
プリント教材をWord(またはGoogle ドキュメント)で作るコツ
Ⅰ A4サイズ1枚に収まるように作る(ページ設定で確認)
Ⅱ 児童生徒の実態に応じて、フォント(書体・サイズ)を変える
Ⅲ 適宜、図表・イラストを入れる
基本的にはビジネス文書と大きな違いはありません。ただ、GoogleドキュメントにおいてはWordと遜色なく使うことができる一方で、用途によってはWordを選んだほうがいい場合もあります。縦書きや、漢字にルビをつける機能は、Googleドキュメントには標準装備されていないからです。これらを使うことが多いなら、無理に乗り換えることはせず、Wordを使い続けるのが賢明です。
プリント教材をExcel(またはGoogleスプレッドシート)で作るコツ
Ⅰ A4サイズ1枚に収まるように作る(ページレイアウトで確認)
Ⅱ 児童生徒の実態に応じて、フォント(書体・サイズ)を変える
Ⅲ 適宜、図表・イラストを入れる
GoogleスプレッドシートはExcelと関数などの機能が似ているため、同じ操作感で扱えます。Googleスプレッドシートは複数人で共有し同時に編集することが可能です。複数人でひとつのシートを編集し合えるというところが、スプレッドシートの大きな特徴ですので、教員間で(同じ教科・学年等で)共同作業しながら教材作成をする際に便利です。
Excelにおいては、Googleスプレッドシートと同様の機能がありますが、図表・イラストの機能が豊富なため 、ビジュアル資料をより効果的に配置することが可能です。この挿入のしやすさは、教材づくりにおいては非常に重要となりますので選ぶ基準としては外せないと感じています。
デジタル教材の作成
GIGAスクール構想が進み、今後の学校現場における「教材」作りの中心となるデジタル教材。プラットフォームごとの各種アプリケーションだけではなく、CanvaやAdobe Express for EducationといったSSO(シングル・サイン・オン)でログインできるサービスを利用することもデジタル教材の利用になります。
オンラインで使える無料のグラフィックデザインツールです。パソコンのブラウザーがあればいつでもデザインが可能。Canva for Education に登録することで、Proアカウントと同等以上のサービスを使うことができます。
Adobeが提供している「Adobe Creative Cloud」の入門版となり、より手軽に誰でも簡単にクリエーティブなコンテンツが作れることを目指したツールです。「Spark Post」と呼ばれていた製品がベースになっており、直感的に使えるのが特徴。
ゲーム感覚で楽しく学習できるコンテンツを簡単に作成・共有・プレーすることができます。全員が同時に参加し、クラス全体の息を合わせて、授業を進行することができるクイズ型アプリです。
Webブラウザーで使えるオンライン掲示板アプリ。テキストを入力しての投稿はもちろん、画像、音声、動画、手書きなど、いろいろなものを投稿して、複数人で閲覧やコメントができます。
他都道府県の教材を学ぶには
数年前では考えられないほど、Webサイトなどを通じて教育実践を検索することができるようになっています。指導案のみならず、板書計画やデジタルコンテンツまで幅広く手に入れることができるようになってきているので、ちょっとした授業アイデアを短時間で手に入れたいときなどは有効利用できます。
また、上記のサイトにおいては公的な機関や、ある程度の審査基準をクリアした執筆者による教育実践サイトとなっていますので、教材作成自体における「信頼度」においても高いものがあります。
最近では、教育系出版社や教員アカウントによるInstagramやTwitterなどにおいても教材紹介などがあります。「算数 3年 円と球」のようなワードで検索すると、板書や教材作成のポイントなどを閲覧することもできます。今後の教材選びにおける一つのトレンドになるかもしれません。
FREERIDE TEACHER (一社)エンターキー教育ICTコンサルタント
Teacher Canvassador
Google認定教育者レベル2
元東京都公立小学校主幹教諭。都内&小笠原諸島父島での公立小学校勤務から長野県白馬村へ移住。長野県内で公立小学校講師と白馬エリアを中心とした教育ICTのアドバイザーも(小中学校・自治体教育委員会など)務める。GEG Hakuba Valley 共同リーダー。