学校飼育動物のこれからを探る、愛知県「モルモットのホスティング事業」 「レンタル」にも「リース」にもしない葛藤とは

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「事業の名称を決めるのにも頭を悩ませました。扱うのは生き物なので、物のように貸し出す『リース』や『レンタル』としたくはなかったのです」

こう話す杉本氏は、事業の好評を受けてもずっと葛藤の中にいる。「ホスティング」と名付けても、「動物のレンタルは禁断の果実」だという思いがある。

「自分が世話をし、慈しんでいる生き物が病気になったり死んだりしたとき、そこから子どもたちが得るものはとても大きい。誤解を恐れずに言えば、そうしたときは命について考え、教えるチャンスでもありますよね。だからこそ重要なのは『継続飼育』であり、途中で返却できるような施策には問題がある――そう批判する声もありますし、その気持ちは私もわかります。しかし余裕のない学校がここまで増えて、すでに飼育数もここまで減っている状況では、もはやこうしたやり方しかないのではないかとも思うのです」

県獣医師会のHP内には「モルモット通信」のページがあり、教員や子どもたちからは「モルモットの返却後もよくチェックしている」との声が
(資料:愛知県獣医師会HPより)

現在のモルモット貸し出し数は、一時期に比べると減っていると杉本氏は言う。同氏はその理由を、コロナ禍で減っていた行事が規制緩和で復活しつつあり、教員の仕事量が増えてきたからではないかと推測している。

「つまりはホスティングという形になっても、子どもたちが動物と触れ合えるかどうかは先生の余力にかかっているということだと思います。ペットブームと言われましたが、犬や猫を飼っている家庭は少なく、とくに低学年の子どもの家庭では2~3割いるかどうかというところです」

また、獣医師会としても課題に感じていることがある。それは「想像よりもモルモットの飼育を引き受けてくれる獣医師が少ない」ということだ。

「動物を飼育するのはやはり手間がかかることです。獣医師も先生も家庭の保護者も、とにかく社会全体に、そうしたことをする余裕がない。それがすべてなのだと思います。ホスティング事業も最短期間の1カ月で実施する学校が多く、単なる実習の一環となってしまうことを危惧しています。できたら1学期の間など、なるべく長くモルモットと一緒に過ごしてほしいですね。少しでも継続飼育に近い形で動物と触れ合ってほしいし、そのための助言も続けていきたいと思います」

余裕のない時代にこそ、動物と関わることで得られるものを大切にしてほしい。もちろんいちばん重要なのは、それぞれの命について正しく学ぶことだと杉本氏は強調する。「モルモットとの触れ合いから、子どもたちにどんな効果があるかも調査・分析していきたい」と、この先の展望も語ってくれた。

(文:鈴木絢子、注記のない写真:TK6 / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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