学校飼育動物のこれからを探る、愛知県「モルモットのホスティング事業」 「レンタル」にも「リース」にもしない葛藤とは

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モルモットに自分たちで名前を付けて、同じ教室で過ごす

学校に貸し出されるのはすべて、獣医師会の臨床部会会員が個人的に飼育しているモルモットたちだ。飼い主のいない備品のような扱いをするのではなく、きちんと管理されてかわいがられている動物であることが重要だという方針があるためだ。ただし、モルモットがホスティング事業から引退するまでの間にかかる費用は、獣医師会がすべて負担する。モルモットを飼育してくれる獣医師は初期には5人程度だったが、現在は15人以上にまで増えた。

学校には飼育ケージや保温設備なども一括で貸し出し、飼育場所は教室や廊下など、子どもたちの目が届く屋内に限定している。屋外での飼育は禁止だ。杉本氏は、これが従来の屋外飼育にはなかった効果を生んだと見ている。

「教室から遠く離れた飼育小屋での飼育では、学校がかなり熱心に指導していない限り、動物と関わるのは飼育委員の子どもたちに限られていました。それ以外の多くの子どもは、そうしたウサギや鶏が死んでも『そういえばいたな』と思い出す程度ではないでしょうか。しかしこの事業のモルモットは、子どもたちが考えた名前をもらって、いつも同じ教室の中にいる。モルモットは扱いやすい大きさながら、おしっこやうんちの量が意外に多くて、ケージの掃除も大変な動物です。でもこちらの行動に反応してくれたり、子どもたちの顔を見て鳴いたりもするんですよ。その存在や思い出は、子どもたちの心により強く残るのだと思います」

愛知県獣医師会では定期的に動物との触れ合いについて講義を行ってきたが、屋外飼育のウサギなどを教室に連れてくることが多かった。講義の後には子どもたちが感想文を書いてくれるのだが、「先生に言われているのか、同じような文章が書かれていることが多かった」と杉本氏は振り返る。だがこのモルモットのホスティングでは、その感想の内容がぐっと多様になった。

「一人ひとりが本当に感じたことを書いてくれているのでしょう、それぞれ違った感想が寄せられるようになりました」

パネルヒーター付きのケージ、餌のチモシーなども愛知県獣医師会が提供する。子どもたちは白いモルモットに「おもち」と名付けた
(写真:豊川市立千両小学校、つづき動物病院提供)

物理的な距離が近いこともあり、「元気がないみたい」「ご飯を残してる」など、子どもたちはモルモットの体調不良にもよく気がつくそうだ。長期休暇の間は獣医師会が預かることになっているが、希望者がいれば子どもの家庭に「ホームステイ」してもいい。動物好きの教員が立候補して預かることもあるという。また、学校がホスティングの最長期間を超えてモルモットを飼育したいと希望すれば、健康診断など獣医師会のバックアップを継続しながら、飼育設備とともに譲渡することも可能だ。

「この方法は禁断の果実、しかしもはやこれしかないのでは」

学校の負担を極力減らすことを重視したこの事業は想像以上の反響があり、現在はほかの自治体からもノウハウを教えてほしいという問い合わせが来ている。ホスティング期間が終わった後も、個々のモルモットがどうしているかを知ることができるウェブページ「モルモット通信」も人気だ。

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