外国人12人に1人の町が始めた、「一歩進んだインクルーシブ教育」の中身 愛川町「インクルーシブサポーター」の役割
障害の有無や性別、性的指向、人種などの違いを認め合う、共生しながら一緒に学ぶインクルーシブ教育が、最近ではクローズアップされつつある。外国にルーツのある子どもたち、特別な支援を要する子どもたちへの対応は、まさにインクルーシブ教育である。さらには不登校も含めて、学校にいづらさを感じている子どもたちなど、さまざまな問題を抱えている子どもたちへの対応も、インクルーシブ教育である。菅沼氏が続ける。
「支援が必要な子どものために配置される人たちは『介助員』と呼ばれていることが多いようです。しかし愛川町では、『インクルーシブサポーター』と名付けています。介助員というと対象の子の面倒だけを見ていればいいと解釈されますが、インクルーシブサポーターは対象の子だけでなく、困難な場面で困っている子どもたちをサポートすることになっています。そこには外国にルーツを持つ子どもたちや特別支援の子どもたちだけでなく、日本人の普通の子どもたちも含まれています。つまり、特定の子だけを対象にするスポットのインクルーシブ教育ではなく、『面のインクルーシブ教育』です」
例えば、図工ではさみを使う場面があって、はさみが苦手な子がいたとする。その子は、支援が必要な子ではない。その場面に、外国にルーツを持つ子の対応でインクルーシブサポーターが入っていたら、その子もちょっと助けてあげるのだ。普通だと「自分の仕事ではない」ということになりがちだが、面のインクルーシブ教育の考えでは手を差し伸べて当然となる。それによって、外国にルーツのある子どもや特別支援の子以外も、学びを深めることができる。誰もが共生する場面にできるのだ。
「そのように、インクルーシブサポーターが機能的に動けるようになればいいな、と思っています。まだ浸透していると言える状況ではありませんが、その方向性で進めていこうとしています」と、菅沼氏は話す。
授業を混乱することにもなっている
発展途上であることは、中津小学校の粟根氏も次のように認める。
「当校のように外国にルーツを持つ子が多いと、1つの授業に複数のインクルーシブサポーターがいるといったこともあります。そのサポーターたちが周囲に勝手に教えるので授業が成り立たないという場面を、私も何度も目撃しています。インクルーシブサポーターに効果的に働いてもらって深い学びにつなげるには、インクルーシブサポーターに担ってもらいたい役割を事前に担任が説明しておくなどの配慮が必要です。それが完璧にできているとは、まだ言えない状況です」
愛川町のインクルーシブサポーターは、小学校6校で1週間当たり120日分が配置されている。単純計算では1校当たり1週間に20日分、つまり20人のインクルーシブサポーターが入っていることになる。ただし、外国にルーツのある子や支援が必要な子の数といった学校の状況によって配置される人数が違う。1人が複数の学校に入ったりもしているので、120人のインクルーシブサポーターがいるということではない。
中学校は愛川町に3校あるが、1週間当たり40日の配分となっている。小学校同様、配置の状況は、学校の状況によって違う。
ともかく、これだけのインクルーシブサポーターを配置しながら面のインクルーシブ教育に取り組んでいるのは、外国にルーツのある子どもたちが多いという環境で、インクルーシブ教育を考えざるをえなかったからだといえる。そして、面のインクルーシブ教育は広まりつつある。
インクルーシブで変わる教育
愛川町には、外国にルーツのある子どもたちが全校児童の25%以上を占める中津小学校のような学校もあれば、かなり比率の低い学校もある。半原小学校では、外国にルーツがあって国際教室(日本語指導教室)での指導を必要としている子は5人でしかない。