昼間も通える現在の定時制高校、「やんちゃな子」より圧倒的に多いのは 3部制で単位制、給食の提供も…守る「多様性」

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例えば、同校に在籍する生徒の約15%は外国籍で、中にはまったく日本語が話せない生徒もいる。昔のような「勤労学生」もいるし、50代の生徒もいる。また10%ほどは発達に何らかの障害があり、支援が必要な生徒たちだ。そして全体の約6割が中学時代に不登校を経験しているという。そういった背景からか、高校進学については子ども本人だけでなく、保護者の不安も大きいと武田氏は言う。

「親子で学校見学や相談に来る方も少なくありません。その際には授業の様子なども見てもらって、教員からも丁寧に話をしています。ごく普通に学校生活を楽しむ本校の生徒たちを見て少し安心するのか、『ここなら大丈夫なんじゃないかと思う』と言ってくれる親御さんもいます」

入試の際には「日本語力に不安があるので、ルビ付き問題で辞書の持ち込みを認めてほしい」「書字障害があるので試験時間の延長をしてほしい」などという特別措置申請もよくあり、個別に教室を用意して対応する。学校全体で協力して柔軟な措置を図り、「この学校に通いたいという子どもの声に応えたい」と言う武田氏。生徒についてはこんな変化を感じている。

「中途退学の生徒数は10年ほど前には年間3ケタに達していたと聞いていますが、現在では30~50人程度になっています。また、いわゆる昔の不良のような、目立とうとする子はほとんどいなくなりました。一方でおとなしくて自信がなく、自我が発揮できない生徒が多くなった気がします」

廊下をバイクで走ったり校舎の窓ガラスを割ったりするような生徒はいないが、引きこもりがちな生徒が多くなっていると言う。

「近年はリストカットやオーバードーズなどの自傷行為に苦しむ生徒がいます。本校でいちばん気を使うのは、こうした命に関わることが起こるときです。一つひとつの案件が非常に重く、どれも最重要といえるものばかり。教員は、生徒が何らかの課題を抱えていることを前提に向き合っています」

こうした状況を踏まえ、一橋高校ではスクールカウンセラーに加えて、福祉や就労支援の専門スタッフであるYSW(ユースソーシャルワーカー)とも連携するなど、生徒のサポートに注力している。同校に赴任するまで、武田氏は「進学が当たり前」の全日制高校でしか勤務経験がなかった。当初は戸惑いも大きかったと言う。

「それまで私は偏差値で子どもが『輪切り』にされる世界にいましたが、ここは生徒の学習意欲を高め、学力の向上を図っていかなければならない世界です。朝から晩まで多様な対応が求められ、突発事項の頻度も率直に言って高い。でも本校の先生方は非常に熱心で、副校長としては頭が上がりません。定時制高校はあまり社会の目が向かない場所だと思いますが、ここで頑張っている生徒と、それを全力で支える教員は確実に存在しているのです」

入学の決め手にもなる給食、教員は「指導だけでなく支援」

夜間定時制高校では法律に基づき、勤労学生に食事を提供する目的で給食を用意してきた。だが2018年には千葉県が県内すべての夜間定時制高校の給食を廃止するなど、そのあり方も変わってきている。武田氏も給食の役割が変わってきたと見ているが、その必要性はむしろ増していると考える。

「決まった時間に食事を取ることは、例えば起立性調節障害の生徒の生活リズムを整えるためにも役立つはず。また、家庭の経済状況で食事を満足に取れない生徒もいる。1日1回の給食でも、その意味は小さくないと思います。生徒も給食を楽しみにしていて、入学の決め手になったと話してくれる子もいますよ」

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