農業高校が70年以上前から行う「プロジェクト型学習」、ICT導入で起きたこと データ収集・活用で地域と農業の課題を解決

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そして、農業実習の記録は営農記録ツールの「アグリノート」というアプリに記録するという。以前はほかの生徒の記録を見ることができなかったが、アプリの導入によって生徒と教員、生徒同士でデータを共有できるようになった。これにより、先輩が蓄積したデータを後輩たちが活用することも可能となっている。

生徒の課題研究が実際の現場に生かされる

園芸科だけではなく、動物科でも先端の学びが行われているという。

「動物科では学校犬の首輪にセンサーを付けて運動量や睡眠時間を計測し、犬にとって適切な運動量や快適な生育環境を整える研究を行っています。動画カメラも設置したので、生徒は帰宅した後もスマホで犬の様子を観察できます。22年度の3年生は、家で飼育している犬にもセンサーを付けて学校犬と比較し、課題を見いだす研究を行っていました。ICT機器の導入により、生徒の課題研究の幅が広がりました」

さらに、園芸科と農業科が共同してソーラーシェアリングを実施。これは農場にソーラーパネルを設置するもので、太陽光を農作物とシェアする形で太陽光発電を行い、農作物の収穫と農業機器への利用とを両立させるのだという。

いずれの取り組みも、センシング機器で収集したデータをどう読み取り、分析し、いかに現場につながる課題を見いだすかという点に重点が置かれているが、分析したデータを生かして試行錯誤できる場があることこそが農業教育の強みだろう。

1人1台端末が変えた生徒の意識

着々と ICT活用を進めてきた都立園芸高校だが、これに伴い生徒たちはどのように変化しているのだろうか。

「本校の授業では、農場管理基準のGAPに基づいた農場安全管理を学んでいます。本校はJGAP(Japan Good Agricultural Practice)の認証を受けていますが、その認証継続の審査では生徒自身が審査員に説明を行います。その審査に向けて、生徒たちは営農記録ツールでトレーサビリティーの記録を蓄積しているのです。また東京学芸大学の研究では、一人1台端末を使うことで生徒たちは『自分の考えや意見を友達や先生にわかりやすく伝えることができる』と認識していることがわかっています(※2)。人前で話すのが苦手な生徒も、デジタル機器で自分の考えをまとめると伝えやすく感じるようです。今後も魅力ある農業教育を創造していきたいですね」

自ら課題を見いだし、新たな価値をつくる能力を育てる農業高校の学び。都立園芸高校では、そんな農業高校伝統のプロジェクト型学習と、ICTによるデータ収集・活用がシナジーを生み出していた。

※2倉田有佳子・北澤武「園芸作物を対象とした1人1台端末による学習の評価 ─高校生の公的自己意識に着目して─」教育システム学会 2021年度学生研究発表会・発表論文 (2022年3月7日発表)

(文:吉田渓、撮影:梅谷秀司)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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