農業高校が70年以上前から行う「プロジェクト型学習」、ICT導入で起きたこと データ収集・活用で地域と農業の課題を解決
都立園芸高校でも、地域連携やプロジェクト型学習を積極的に実施している。地元企業とコラボレーションして校内で栽培したバラを使った芳香蒸留水(フローラルウォーター)を開発したり、静岡県下田市にある同校の農場で採れた柑橘類を使ってマーマレードの製品化をしたりしたそうだ。

「農業を生業とするには、持続可能な経済力を身に付けることも重要です。そこで必要なのは、プロダクトアウトではなくマーケットインの発想で新しい価値をつくり出すこと。そこで本校では、生徒に『マーマレードを950円で売る』という課題を出しました。高校生が栽培から収穫、製造まで行っているというストーリーをどう価値づけるか、瓶のラベルやプロモーション、どこで売るかまで考える必要があります。学校がある世田谷区の土地柄を生かして、ブランディングを行い、結果的に多くの方に購入していただきました」
都心の農業高校が取り組むスマート農業
とはいえ農業教育には課題もある。
「農業高校はもともと農家の子弟の教育や育成を目的に設立されていましたが、近年では非農家の家庭の生徒の増加や高学歴志向が進んでいます。そのため、親元での就農だけでなく、農業法人など企業への就職や農業経営者の育成という視点も必要になってきました。さらに、生徒の減少で統廃合の対象となる学校も増えているほか、施設設備の老朽化も問題になっています」
新しい農業の形を示すべき今、同校が掲げるのが「不易と流行」だ。これは果樹・草花・野菜といった基幹科目(不易)をきちっと学びながら、スマート農業やデータ活用を軸にした学習(流行)を行うということを表しているという。
「これまで農業は勘と経験に支えられてきましたが、今の若い世代は先進機器や先端技術を使った農業に魅力を感じています。勘と経験では匠の域に達するまで5〜10年はかかりましたが、先進機器を使ったスマート農業なら経験がない人でも参入しやすい点がメリットです」

スマート農業と一口に言っても、その内容や使う機器は、各地域の農業によって異なる。例えば大規模な農業を行う地域ではドローンやトラクターの自動運転などを取り入れた農業実習を行う。都心に位置する同校では、センシング機器やデジタルデータの活用を取り入れた学習を行っているそうだ。
勘と経験の農業からデータ分析の農業へ
同校は2020年から1年4カ月、先端技術活用実証研究指定校に指定され、その実績をもとに22年からはTOKYOデジタルリーディングハイスクール事業(先端技術推進校・センシング機器等を活用する学校)に指定された。具体的にどのようなことを行っているのか。
「園芸科では気象データの収集と活用を行っています。農作物の栽培管理や収穫量などは気象条件によって毎年変化しますが、どういった気象条件でどう変わるのかは把握しきれていませんでした。そこで圃場(ほじょう)にセンサーを設置し、気温や土中水分量などのデータを収集しています。そのデータを基に栽培管理をすればよい農作物ができますし、積算温度を基に収穫に適した時期を予想することもできます」