ヤナーエフ・ソ連副大統領は、アントニオ猪木氏の目を見てしばらく黙った。たばこを持った手が一瞬止まった。ヤナーエフ氏の目は小さいが、目力がある。それから32年経つが、このときの2人のやり取りは昨日の出来事のように筆者の記憶に焼き付いている。ヤナーエフ氏が口を開いた。
「エリツィン氏には国民的な人気があります。ルイシコフ氏は経験に富んだ有能な政治家です。バカーチン氏もわれわれの同僚です」
ゴルバチョフ大統領は元内相のバカーチン氏がロシア大統領に当選してほしいと思っていた。しかし、明らかにヤナーエフ氏はバカーチン氏に対する評価を避けている。
ヤナーエフ・猪木会談
実は今回の訪問中、ソ連柔道協会ルートで猪木氏はバカーチン氏と会っていた。猪木氏は柔道協会関係者から、エリツィン氏は急進的で野心が強すぎ、ルイシコフ氏はソ連共産党中央委員会の保守派とつながっているので、いずれもロシア大統領にはふさわしくないとゴルバチョフ氏は考えている、そのためバカーチン氏を説得し立候補させたという話を聞いていた。猪木氏は一歩踏み込んで、ヤナーエフ氏にこう尋ねた。
「私はボクダーノフ・ソ連内務次官と親しくしています。彼がソ連柔道協会会長を務めている関係もあり、何度もそのルートでソ連を訪問しています。バカーチンさんに対するゴルバチョフ大統領の信任は厚いと聞いています」
「猪木さん、ロシアの大統領に誰がなるかは、さあ、結果を見てみましょうよ」と、ヤナーエフ氏は猪木氏の質問に対して正面から答えることを避けた。
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