成長するのが楽しいからやる!子どもが自己調整で「自立して学ぶ」学校の仕掛け 何がどう違う?オルタナティブスクールの学び

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「失敗が成長を生む」が子どもに浸透

では、シェルパはどのように関われば、子どもは伸びるのか。蓑手氏と五木田氏が大事にしているのが「85%」というキーワードだ。

「心理学では『85%の安心感と15%の挑戦』という割合が最適だと書かれた本を読んだことがあります。100%できるものをやり続けると思考停止になるので、チャレンジは必要です。しかし、難しすぎてもいけません。これまでの経験から僕も『能力を伸ばすには10問やったら1〜2問間違えるくらいの学習がちょうどいい』という実感がありました。好きなものも嫌いなものも、注意されたときに受け入れられる力も、一人ひとり違います。そこで、子どもたちが『85%の安心感と15%の挑戦』をできるよう、つねに調整し続けています」(蓑手氏)

それはまるで、音量ミキサーのメーターや車の速度計を85という数字に合わせるような感覚だという。100ではなく85。この数字にこだわるもう1つの意味を五木田氏はこう話す。

「子どもが『自分はここができている、ここができていない』と開示できる。そんな関係をつくるのが僕らの仕事だと思っています。テストで100点を取ることを是とすると、それ以外はダメなのかというとそうではありませんよね。僕らは『少しの失敗が見つかると成長ルートが見つかる』という考え方を一般化したいのです」

音量ミキサーのメーターや車の速度計を85という数字に合わせるような感覚で、声をかけて回るという

そう話す五木田氏には、とてもうれしかったことがあるという。

「『世の中には子どもが失敗すると怒る人がいるよね』という話になった時、ある子が『ありえない! 失敗しないと成長しないじゃん!』と言ったのです。理知的で繊細な子が当たり前にそう言ったのがうれしかったですね。周りの子も賛同していました。能力や学力を上げることは僕らの技術でできますが、そのマインドを身に付けるには、それ以上のものが必要ですから」

カオスの時間を経てできた理想の学校

この1年を振り返り、蓑手氏は言う。

「自由を掲げるからには、世間一般の大人が心配するように身勝手な行動や、傷つく子が増えるという最悪の想定もしましたが杞憂でした。想像以上に子どもは仕立てなくても学ぶ、学ぶことを面白がる。公立学校時代から考えていた『成長は快楽以外の何物でもない』という仮説のとおりでした。子どもたちの伸び方を見ていると、予想以上に理想的な場になっています。自由進度学習はトレーニングなのでしんどい時もあるけど、単純に成長することが楽しいからやるという姿、競争せずに友達の成長を喜ぶ姿が見られます。『今日は自由進度学習の時間が取れないや』となると、『えー!』とガッカリするほどです」

ただし、スタートからすべてがスムーズに進んだわけではない。

「ヒロックにはルールがない。子どもに言っているのは『多数決はやめてね』くらい。それもあって4〜5月はカオスでした。けんかやささいなことから『じゃあどうすればよかったのか?』をみんなで考え、学び、つくっていく。そんな『悠久の時間』があったからこそ、今があるのです」

4月には新しいメンバーが7名加わった

実際にこの1年やってみて、2人には「もっといける」という手応えがあるようだ。自己調整しながら自立して学ぶのは難しいと言われてきたが、ヒロックではできていて子どもたちも育っている。

こうして文化、土壌も醸成されてきたことから、今後は少しずつ新入生も受け入れる予定だ。4月には、新入生7名と新シェルパ2名を迎えた。

「新しいメンバーが入ってくると葛藤が生まれることもありますが、それもまた学びです。挑戦できる場であり続けることが大事だと思っています。ただ、手厚く見ていくには、Co-learner 12人にシェルパ1人を基準に考えています。今は20人に2人なので、人数はゆっくり増やしていこうと思います」(蓑手氏)

2人の小学校教員がつくった唯一無二のヒロック。子どもたちとともに、ヒロックという場も今後さらに進化していくことだろう。

(文:吉田渓、注記のない写真:東洋経済撮影)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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