高コスト、商品輸送に時間がかかる、低知名度。「三重苦」を抱えた欧州の地でユニクロはいかに戦い、利益が出るビジネスモデルを築いたのか。
白い石造りの建物が並ぶ大通りを、赤い2階建てバスが颯爽と走っていく。道行く人々の手には、H&MやZARA、あるいはバーバリーなど高級ブランドの紙袋。ここは、イギリス・ロンドンの最も大きなショッピング街の1つ、リージェントストリートだ。日本のアパレル最大手「ユニクロ」は20年前からこの地に店を構え、ファッションの中心地である欧州市場に挑んできた。
“Heat or Eat(暖房か食料か)”――。イギリスでは昨年秋から、世界情勢の影響を受けてガスの価格が急騰。「ガスを使って暖房をつけるか、ガス代を節約して食料を確保するか」という非常事態に直面し、一般家庭の1年分のガス代が前年比3倍の約57万円になるという試算まで飛び出すほどだ。そんなときだった。
「ガス代の節約にユニクロのヒートテックが使えるらしい」
一般的にはインナーをあまり着用しないといわれるヨーロッパ人の間で、ヒートテックの評判が拡散。欧州において、ユニクロの存在感を高める契機となった。
ファーストリテイリングの「ユニクロ」欧州事業が、新たな局面を迎えている。これまでは母国市場の日本、海外最大の売り上げを出すグレーターチャイナ(中国・香港・台湾)が業績を牽引する一方、欧州と北米は長年にわたり売り上げが伸び悩み、赤字が続いていた。だが、前2022年8月期に欧州と北米それぞれが営業黒字に浮上。好調のアジアに次ぐ収益柱になりつつある。
ユニクロが欧州攻略を重視する理由
「服はどこから出てきたのか。ヨーロッパですよね。ユニクロの服はベーシックだが、クラシックでトラディショナル。繊細なヨーロッパ人の感性は、日本の感性とも合っている」
昨年10月のファストリ決算会見。柳井正・会長兼社長は、過去最高の売上高を記録した欧州市場についてそう語った。現在、ユニクロの売上高は日本と海外を合わせて約1兆9200億円。そのうち4割強の8100億円を母国市場の日本、約3割の5400億円をグレーターチャイナが稼ぎ出す。
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