中学校教員が「四者四様」で実践、本物の科学に触れる探究理科の授業が凄い 府中第六中、かえつ有明中、青翔開智中の今

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中学校理科は、物理、化学、生物、地学と4つの分野に分かれるが、すべての授業で「探究理科」を実践するのではなく、1年生は、実験の条件がある程度制御しやすい「光・音・力」の物理分野、2年生は電気や気象、3年生は水溶液とイオン、物体の運動の単元で取り入れてきたという。

当初は「自分で問いを立てる」ことに戸惑う生徒も多かったというが、「『まずは自分の疑問を大事に、言葉にしてみる』『頭の中にぼんやりと浮かんだものを、実験ができる問いにしてみる』など“問いを立てる練習”を重ねるうち、子どもたちがもともと持っている好奇心を解放して問いを立てることができるようになりました。

もちろん、実験できない問いを立てたり、発見までたどり着かない問いを立てたりすることもあります。しかしそこで頭ごなしに否定するのでなく、生徒の選択や決断をなるべく尊重し、いかに実現できるか一緒に考えるようにしています。自分が『なぜだろう』『不思議だな』と思ったことを確かめるのが、理科の醍醐味。実際やってみて、『これじゃうまくいかない』『これは実験が成立しない』などの経験を積むことも、とても大切だと思っています」。

自分が「なぜだろう」「不思議だな」と思ったことを確かめるのが理科の醍醐味だという。写真は中学1年生「光・音・力」の単元の授業の様子

井久保氏は続ける。

「『探究理科』を実践するためには、科学的なものの見方や考え方はもちろん、その単元についての基礎知識や理解=土台が必要です。そのために、授業の冒頭で、探究に必要な知識や実験観察に必要なスキルを教える『ミニレッスン』、授業の途中で個別に実験観察に対してアドバイスをする『カンファランス』を行っています。学んだことを実際の場面で繰り返し使う機会をつくることで、生きた知識として定着するよう心がけています」

探究理科の授業を実践するようになってから、生徒たちからの問いかけが、これまでの「先生、今日はどんな実験やるんですか?」から、「先週お願いした〇〇(実験に必要な物)ありますか?」「外で実験してきていいですか?」などの内容に変わったという。生徒が「自律的な学び手」となりつつある様子がうかがえる、印象的なエピソードだ。

自分の授業スタイルを変えるなら今しかない

「自分なりに授業スタイルが確立してきた中学教員6年目のある日、自身の得意分野である『イオンの中和』について熱く語っていたとき、ふと教室を見渡すと、まだ1時間目なのに、半分以上の生徒が寝ているんですよ。『ええっ!?』って。その時の衝撃は今でもよく覚えています」

深谷新(ふかや・あらた)
かえつ有明中・高等学校理科教諭
(写真:深谷氏提供)

と言うのは、神奈川県海老名市の公立中学校で10年間理科教員を務め、2022年からかえつ有明中・高等学校で中学校の「理科」「サイエンス科」と高校の「生物基礎」を担当する、深谷新氏だ。深谷氏もまた、それまでは、生徒全員が同じ実験器具を使う、いわゆる“教授型の一斉授業”を行っていた。

「あの日以来、『自分の授業を見直さなければいけない』という切実な思いにかられ、一方的に教えるのでなく生徒同士の学び合いのようなスタイルの授業にしてみたりなど試行錯誤していました。そんな中、良質な探究学習の一般普及を目指す『こたえのない学校』の『Learning Creator's Lab』に参加しました。そこで軽井沢風越学園で理科を教える井上太智先生と出会い、彼の学習者主体の実践を聞き、『こんな授業がしたい』と。『自分の授業スタイルを変えるなら今しかない』と思い、18年の新学期から、海老名市内の公立中学校で『探究理科』の授業実践をスタートしました」

最初は手探りだったというが、生徒たちが生き生き学ぶ様子に少しずつ手応えを感じ始めた頃、深谷氏の授業を長年見ている授業づくりネットワーク理事長の石川晋氏が「深谷先生の理科の授業が変わり始めています」と、SNS上で発信。それを機に、同様の志を持つ全国の理科教員が授業を見に来たり、連絡を取り合ったりしてコミュニティーが形成されていった。前述した井久保氏、後述する青木氏、松永氏とつながったのもこの頃で、以来、オンラインをメインに不定期で互いに実践報告や意見交換を行っているという。

探究心あふれる3歳児になってほしい

2023年2月。かえつ有明中・高等学校で深谷氏の1年生理科の授業を見学させてもらった。化学の「粒子」という概念に対して、「何が変化(状態・溶けるなど)させるのか」という本質的な問いで探究理科を展開。理科室では、生徒が個別もしくは2人1組で問いを立て、それぞれ実験を進める準備をしている。

授業の冒頭で、深谷氏は、「切った髪の毛に日焼け止めクリームを塗って変化を見る」「花火を水の中で燃焼させる」など何人かの生徒の実験エピソードを写真や動画で紹介した後、「自分なりの“誇れること”や“こだわり”を意識しながら実験を進め、発表に臨みましょう」と、ポイントを伝えた。

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