いじめの重大事態や事故の危機対応、「できる学校」と「間違う学校」の決定的差 スピード命、警察など専門家が入る体制も急務

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では、校長や教員が、危機管理として何か日頃からできる対策や注意すべきポイントなどはあるのだろうか。

石川氏は、まずは「誰かにすぐ相談できる体制」が必要だと助言する。教員は1人で問題を抱えてしまいがちだが、それではどうしても判断が鈍ってしまうからだ。

「教員が相談しやすいよう、つねに校長室を開けている学校がありますが、そんなふうに管理職と教員の物理的な距離を近づける工夫は効果があると思います。また、生活指導の先生が頼りになる人で、相談しやすい体制ができている学校も問題が起こりにくいです。あるいは、学校には“要の先生”が必ずいるので、そういう先生に情報共有できれば、問題が起きたとしても解決に至りやすい。過去の事例を見ていると、うまく危機に対応できる学校には、先生が1人で抱え込まないで済む仕組みがあると感じます」

優先すべきは「自分との信頼関係」ではなく「子どもの命」

石川氏が全国各地で実施している危機管理研修でリスクを数値化する演習をすると、発生頻度が高くダメージが大きい問題として最近多く挙がるのが保護者対応だという。とくに若手の教員が1人で適切な対応をするのは難しいので、「すでに実施している学校もありますが、複数担任制を導入できるとよいのではないでしょうか」と石川氏は言う。ただ、度を超えた保護者に対しては、線引きが必要だと指摘する。

「本来ならPTAが保護者の不満や声をまとめて学校に提言すべきなのですが、今のPTAはそうした役割が機能していないこともあり、個々の保護者がいきなり学校に不満をぶつけてしまう構造になっています。中には、一部とはいえクレーマーのような方も存在しますよね。学校側も、愛情ある批判は受け止めて改善すべきですが、病的な言動を繰り返す保護者については、弁護士やカウンセラーなどに頼ったほうがいい。その際、どの専門家に対応をお願いすべきかを振り分ける役割は、やはり副校長など管理職にあります」

そしてもう1つ、重要なのが優先順位。つねに「命を最優先」することだという。当然のことのように思うかもしれないが、とくにいじめ問題はここの判断を誤りやすいようだ。例えばいじめが起こると子どもは「誰にも言わないで」と言うが、教員も親もその言葉に従ってしまう傾向があるという。

「子どもの『言わないで』は心理学の観点でいえばSOS。問題解決のための行動を即起こすべきです。本人が反撃せず、周囲も解決に向けた行動を起こさず放置すると、最悪の結果をもたらします」と石川氏は警鐘を鳴らし、こう続ける。

「子どもは大人と違ってささいなことでも悩んで追い詰められてしまう面があり、あっという間に自ら命を絶ってしまうこともあります。私がいじめの現場に対応した際も、『子どもの気持ちを大事にしないと信頼関係が崩れるから』とおっしゃる先生がいましたが、優先すべきは自分との信頼関係ではなく、子どもの命を守るためにいじめを即止めることですよね。先生方は『放置したら命が奪われてしまうかもしれない』と、つねに先を見通す想像力を持って子どもの危機に対応すべきです」

小さな異常が積み重なることで大きな事件や事故につながるので、とくに「スピードが命」だと石川氏は強調する。小さなことは様子を見ようということになりがちだが、少しでもおかしいと思ったら、その日のうちに問題の芽を摘むことが大切だという。「例えば子ども同士のもめ事は、初動で学校と保護者が対応すれば深刻ないじめには発展しません」と、石川氏は話す。

警察など専門家との連携や、保護者への啓発も必要

では、いじめが発覚した場合には、どう動けばよいのか。

「まずはいじめを受けている子どもと保護者の話をしっかり聞くこと。次にいじめの加害者にきちんと謝罪させることです。これまで加害者対応をしてこなかったことが、重大事態の原因になっていると考えています。また、文部科学省も2023年2月7日、いじめ問題の対応において警察との連携を徹底するよう通知を出しましたが、学校で解決できない問題は警察に相談すべきです。誰かを深く傷つけたときは、学校と警察が『これは犯罪である』と厳しく指導する必要があるでしょう。そうでないと、子どもは社会を甘く見て、将来また犯罪を起こすのではないかと思います」

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